2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
これは「和食をめぐる文化」が評価されたもので、具体的な内容やメニューが登録されたわけではありません。
とはいえ、日本は20年以上前から世界一の長寿を誇っています。やはり和食は健康にいいのでしょう。
「体によい食事」として比較される地中海食も負けてはいません。
2040年にスペインでは平均寿命が85歳を超え日本を抜いて世界一の長寿国となる見込みとのレポートもあります(保健指標評価研究所)。
和食と地中海食を比べてみて、健康について、また相違点について考えていきます。
和食と地中海食と比べても、負けていない和食の特徴!
和食の何が評価されたのか、そこから見ていきましょう。
- 多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
- 自然の美しさや季節の移ろいの表現
- 正月などの年中行事との密接な関わり
- 栄養バランスに優れた健康的な食生活
しっかりと理にかなった「健康的な食生活」であることがうたわれています。
和食は一汁三菜を基本とし、「うま味」を上手に使い、動物性油脂の少ない食事で、栄養のバランスがとれて、肥満、生活習慣病の防止に役立っています。
よい点として、以下の四点が上げられます。
- 低カロリー
- 低脂肪
- 多品目
- 高食物繊維
一方、リスクとしては
- 低栄養(たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラル不足)
- 糖質(でんぷん質)の過剰摂取
- 高食塩
などが挙げられます。
戦前までの日本の食事はどうだったのか

和風の食事は室町時代にできたといわれています。
この頃は前述の健康リスクの影響で短命でした。
脂肪の摂取が少なく、脂溶性ビタミンであるビタミンAも不足し失明することもありました。
また、しもやけ・あかぎれ・青ばなもビタミンA不足が元になっています。
油脂や脂肪の摂取は、世の中全体が豊かにならないとなかなか増えません。それまでの日本は栄養素の欠乏症に悩んでいる国でした。
お米を精白しておいしく食べることでビタミンB1不足も深刻でした。
ビタミンB1不足になると脚気になります。命を落とすこともまれではありませんでした。

脚気の検査はひざの反射を調べる
豚肉はビタミンB1がたっぷり!スタミナ補給・疲労回復効果に○
鈴木梅太郎先生がオリザニンを1910年に発見するまで、陸軍と海軍が脚気の原因について激しく論争した事実があります。
陸軍では脚気は感染症が原因ではないかとし、海軍では食事が原因ではないかとして、西洋式の食事を取り入れたりしたそうです。
残念なことに陸軍では脚気で命を落とす乗組員がたくさん出ました。
1911年、ポーランドのカシミール・フランクによりオリザニンと同じ栄養素を発見。ビタミンB1と命名されました。鈴木梅太郎先生のオリザニンの方が早かったのに、陸軍、海軍の論争のためか、この研究成果は世界に発信されなかったそうです。(栄養学を学ぶものはここで悔しい思いをします)
一つ一つのビタミンの発見も大変な犠牲があってのことですね。
他にも、低たんぱく質の状態が長く続くと抵抗力が落ちて、感染症が多くなります。昭和20年くらいまで、日本は結核の蔓延に苦しんでいました。
伝統的な和食の利点を強調しすぎることの問題点は・・・
和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことにより伝統的な和食の利点を強調しすぎて、昔の食事に戻そうとする運動もあります。
これには問題点が多々あります。
私が物心ついた頃は「人生50年」と言われていました。
その頃までは和食の利点の「多品目」を享受できていたのは、特別な階級の人々や裕福層のみで大多数は栄養欠乏症に悩まされていました。
今でも「やせ」や「貧血」など低栄養状態の人々は多くいます。
やはり極端な懐古運動はせっかくの長寿国となった利点を手放すことになるのではないでしょうか。
では、どんな食事ならよいのか

スマートエイジングの考えを研究・提唱している東北大学大学院農学研究科の研究によると1975年(昭和50年)頃の日本人の食事が最もヘルシーとの結果が出たそうです。
(余談ですが、その頃は私が栄養士の勉強をしている頃となります)
研究は国民栄養調査(現在は国民健康・栄養調査)に基づいて
- 1960年(昭和35年)
- 1975年(昭和50年)
- 1990年(平成2年)
- 2005年(平成15年)と15年刻みで実際に各年代の食事をマウスに1週間食べさせる実験をしました。
マウスの実験結果は1975年型の食事が最も長生きし、2005年型が最も老化が早かったそうです。
マウスの実験の後は、実際に人に28日間食べてもらい影響を調べました。
その結果1975年型の食事は「肥満者を健康に」「健康な人はもっと健康に」なったそうです。
その1975年頃の典型的な食事とは
- 朝食・・・ご飯、卵焼き・納豆・みそ汁(キャベツと油揚げ)・くだもの(みかん2個)
- 昼食・・・きつねうどん(油揚げ・かまぼこ・ほうれん草・刻みネギ)・くだもの(みかん2個)
- 夕食・・・ご飯・五目豆・サバのみそ煮・すまし汁(白菜とわかめ)
と、このようなものだったそうです。
これを見ると、ご飯やうどんといったでんぷん質を主食としてしっかり摂り、納豆・みそ・油揚げ・五目豆など、大豆製品も複数摂っています。
その他のたんぱく質として卵焼き・サバがあり、この頃はまだ肉はそれほどたくさんは食べていないですね。野菜も毎食、極端に主張することなく入っています。
揚げ物や炒め物で使う油も、動物性の脂肪も控えめです。
成長期の子供はこれにおやつとして牛乳とふかし芋などがあれば満点というところでしょうか。
この頃の日本の食事は伝統的な和食に加えて適度に欧米化がミックスされ栄養のバランスがほどよくとれていました。
完全な欧米化とはならず、「変えたのはおかずだけ」という状態で、ご飯は手放していませんでした。
いけない食事の例としては・・・

同時に調べたもっとも不健康とされた2005年の献立例は
- 朝食・・・トースト・オムレツ・アスパラのベーコン巻き・くだもの・牛乳
- 昼食・・・ハンバーガー・サラダ・ジュース
- 夕食・・・ご飯・豚肉の生姜焼き・ポテトサラダ・タマネギと豆のスープ
2005年型は肉類が多くなっていますね。朝はパン食が多かった私自身、ドキッとする点があります。
食べやすくって子供も喜びそうなものばかり。食物繊維も少ないようです。行き着くのは「メタボ」ですか、やはり・・・
「地中海食スコア」とは

「地中海食」とは1960年頃の南イタリアやギリシャなど南欧に住む人たちの食事をいいます。
地産地消型のスローフードです。
全粒粉のシリアルやパンやパスタを主食とし、野菜やくだもの・豆類、ナッツ類などの植物性食品を多く摂り、オリーブオイルを脂肪源としています。
そして乳製品や魚介類、脂の少ない鶏肉を週に数回摂り、グラス1~2杯のワインを楽しむ食事のスタイル。
ヘルシーさだけでなく、なにかおしゃれ感も漂いますね。
地中海食には、さらに健康作りを考える上でわかりやすい「地中海スコア」なる指標があります。
食品を9項目に分けて評価します。
- 豆類(ナッツ類)
- 全粒穀物
- くだもの
- 野菜
- 魚
- オレイン酸と飽和脂肪酸の割合
- 獣肉
- 乳製品
- アルコール
このうち、1から6までは平均以上に摂取する人はプラス1点を、逆に7から9は少なめに取る人はプラス1点とし、9点満点で何点かを数えます。
150万人対象とした調査では、現状よりも2点プラスされるとすべての死因での死亡リスクが9%、心血管病で9%、がんで6%、アルツハイマーやパーキンソン病で13%低下していたという研究結果があります。
いやはや他国の研究はすごいですね。
裏話になりますが、この後の研究として2017年にイタリアのニューロメド研究所で行われた調査では確かに「地中海スコア」が上昇すると心血管疾患のリスクは低下するが、収入や学歴によって効果の現れ方が異なるという結果も出ています。
高収入者ではスコアが同じでも
- 肉類の摂取量が少なく
- 魚や
- 全粒穀物の摂取量が多く
- 抗酸化物質を多く含むくだものや野菜を多く摂取し
- 調理にも工夫が見られた
このように食事のパターンだけでは評価できないものがあるのは事実ですね。
「和食」と「地中海食」を比べると

適度な運動も大切です
1975年の和食と1960年代の地中海食を比べると「甲乙付けがたし」の結果になるそうです。
長寿に強い相関がある生活習慣は
- よい食事
- 適度な運動
- 適度なアルコール
- 禁煙
となり、国や習慣が違っても「よいことはよい、控えるべきは同じこと」となるようです。
日本でも「日本食スコア」を作る準備が進んでいます
残念ながら日本では食と健康に関するエビデンスは不十分といわれています。
ですが前掲の東北大学大学院農学研究科の先生方を始め各大学・研究所・企業の研究者がメンバーとなっている「日本食と健康研究会」では日本食スコアを私たちに提示していく研究を進めています。
「和食の美学」『農耕により緑を増やし、自然が生み出すものを収穫して食べる。自然と対立するのではなく融合し、自然が織りなす四季折々の変化を楽しむ文化を持った地球に優しい食事』を誇りとして、健康寿命を延ばしてスマートにエイジングしていきたいものです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
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