水煮のたけのこは年中出回っていますが、新鮮なたけのこの風味、えぐ味はまさに春の生命力をいただくイメージで、旬の時期だけのぜいたくです。
竹冠(たけかんむり)に旬(しゅん)と書いて「筍(たけのこ)」。
この「旬」という字は「上旬」「中旬」「下旬」と使うように、十日間を意味します。
たけのこの旬は芽生えてからの十日ほどです。
旬の時期は短いということですね。
目次
たけのこの旬は十日間ほど

たけのこは「たけのこ掘り」「朝堀りたけのこ」というように「掘る」ものです。
土から頭を出したらすでに遅いともいわれます。どんどん伸びてどんどん固くなり、えぐ味も強くなります。
芽生えて十日も経つともう、固くて食べられなくなるため「旬内の竹」という意味で「筍」の字を当てたということです。
「たけのこは朝堀りをすぐ食べよ」といわれるほど鮮度で味の差が大きくなります。
土の上に出るほど、また、掘ってから時間が経つほど空気に触れて舌を刺すようなえぐ味が出ます。
このえぐ味のもとはシュウ酸とホモゲンチジン酸です。
シュウ酸
舌に残るえぐ味の正体はシュウ酸という成分です。
シュウ酸は多量に摂るとカルシウムと結合して吸収を妨げる作用があります。また結合し結石を作る可能性がありますが、日常の食事で摂る程度なら心配はありません。またゆでて水にさらすことで減らすことができます。
ホモゲンチジン酸
特有の刺激性の風味を持つホモゲンチジン酸はアミノ酸のチロシンが酵素によって変化したものです。こちらも水溶性なのでゆでこぼすことで減らすことができます。
たけのこをゆでる方法は
たけのこは掘った後、どんどんえぐ味成分が増えるので、できるだけ早くアク抜きをする必要があります。
アク抜き方法は米ぬかととうがらしを入れた大きい鍋でゆでます。
たけのこの穂先を5~6cm切り落とし、たけのこがすっぽり入って浮かぶ程の大きさの鍋が必要です。
鍋に入らないときはもう少し穂先を切り落として見ましょう。皮をむくとかなり小さいので大丈夫です。
そして熱が通りやすいように縦に2~3cmの深さに切り込みを入れます。
鍋にたけのことかぶる程度の水、米ぬか一握り、赤とうがらし1本を入れて火にかけます。
落とし蓋をして40分~1時間程度、吹きこぼれに注意してゆでます。
根元に竹串がスッと通れば火を止めます。冷めるまでそのままにすることでアクが抜けていきます。
早い成長の秘密は

たけのこは1日は70cmも伸びることがあるとか
まさに「一気に伸びる!」ですね。一気に伸びて固くなることでイノシシなどの外敵に掘られないようにしているのでしょうか。
植物はふつう、茎の先に成長点があり、その部分がのびていきます。
その点、たけのこはたくさんの節があり、節に成長点が密集しているとか。節毎に盛んに細胞分裂を繰り返し、節と節の間を伸ばしているということです。
その急成長を支えるのは養分です。
竹は地面の下にしっかり張り巡らせた地下茎が養分を供給しています。厳密に言うと「竹の子」は子ではなくて「竹の芽」が正しい表現といわれています。
たけのこは放っておくと皮をつけたまま成長し、やがて皮が落ちて「竹」になります。
ちなみにある程度、たけのこを掘るのは竹林の保存にとって有効とのこと。「間引き」といった感じでしょうか。
たけのこの種類
たけのこにも多くの種類がありますが食卓にのるたけのこは品質や味がよく、収量もある孟宗竹(もうそうちく)が有名です。
一般に食べられているたけのこは3種類ほどです。
孟宗竹(もうそうちく)
もともとは中国の江南地方の原産で孟宗が病気の母親のために寒い中、たけのこを掘った孝行話から名付けられたとか
江戸時代の中期に琉球経由で薩摩に伝わり、東日本まで広がりました。

皮に茶褐色の毛が生えているのが特徴です。
京都産が肉質が柔らかく、甘みがあってもっとも品質がよいとされています。
淡竹(はちく)

淡竹は寒い地方に育つ直径3~5cm程度の細いたけのこで、孟宗竹より一足遅れて最盛期を迎えます。
皮は紫色をおびていてまばらに毛が生えています。
アク抜きしなくても食べられます。
根曲がり竹(チシマザサ)

弓状に曲がるので根まがり竹と呼ばれますが学名は「チシマザサ」とのこと。
最盛期は5月下旬から6月です。このたけのこは15cmほどで、アク抜きせずにこのまま煮物などにできます。
根曲がり竹は風味がよく山菜としても人気があります。主に北日本で収穫されます。
そして熊も大好物だとか。出くわさないように気をつけてくださいね。
たけのこの栄養と機能性
たけのこは約90%が水分で栄養価はさほど高くありませんが、カリウムと食物繊維が豊富です。

野菜に多く含まれるカリウムは体内の余分なナトリウムを排出する働きがあるので、高血圧の予防が期待できますね。
食物繊維は水に溶けない不溶性のセルロースが多いです。腸内環境を整えてくれます。大腸がんの予防にも食物繊維は大切ですね。
たけのこの白いツブツブは取る?取らない?
たけのこをゆでて割ると白いつぶつぶが見えます。つい指でこそげたくなりますが、これはアミノ酸の一種の「チロシン」です。
チロシンはうま味成分なので、そのままいただきましょう。
たけのこのうま味成分は他にも「グルタミン酸」、「アスパラギン酸」が含まれています。
特にチロシンは魚や肉に多く、やさいであるたけのこに含まれているのは貴重な現象です。
たけのこのおいしさはこのあたりにあるのかも知れませんね。
このチロシン、体内へ入るとドーパミンという神経の伝達物質をつくり出す大もとになります。
つまり、たけのこは脳の活性化を助ける食材ともいえそうです。
「たけのことわかめ」は「出会いもの」

新たけのこの時期になると、わかめと炊いたシンプルな「若竹煮」や「若竹汁」が目にもおいしそうです。
実はわかめの旬も春先です。時期を同じくしておいしくなるたけのことわかめは昔から「出会いもの」と呼ばれて親しまれてきました。
この、たけのことわかめのマリアージュ、よくできたものです。
カルシウムの多いわかめと合わせるとたけのこのえぐ味が中和されるのです。
取り切れなかったシュウ酸やホモゲンチジン酸が減って、さらにマイルドに仕上がります。
昔の人の知恵はあなどれませんね。
【まとめ】たけのこは節毎に生長するので旬は十日ほど
水煮のたけのこは一年中食べられますが、皮つきの生のたけのこが店頭に並ぶと、時期が来たなと思います。
が、それも一時です。たけのこの旬は短くあっという間。節毎に成長するのですぐに親を超えるほどになってしまいます。
ですが、生のたけのこを米ぬかを使ってゆでたものはその時期しか食べられない旬の「えぐ味」です。
えぐ味の素はシュウ酸とホモゲンチジン酸です。
うっかり買いそびれてしまった年は、「時期を逃してしまった」と寂しい気持ちになります。
舌を刺すようなえぐ味は春爛漫の体に喝(かつ)を与えてくれますね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
〈参考〉
- 群羊社:たべもの・食育図鑑
- NHK出版:からだのための食材大全
- 小学館:新版食材図典
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
薩摩藩主によって1736年(元文元年)、現在の鹿児島市磯公園に株を植えたのが最初で、以後、青森県以南の各地に広まっていきました。