「魚食の国、日本」では魚の扱いにも長(た)けていて、内臓までも美味探求のために有効利用されています。
魚の産地では様々な「塩辛」が作られ、中にはお酒がいくらでも進むものも・・・
酒盗は鰹の塩辛です。その他にも塩辛のあれこれをみてみましょう。
目次
酒盗(しゅとう)は鰹の塩辛です

以布利(いぶり)漁港(高知県土佐清水市)
子供時代に「鰹の塩辛を特別に『酒盗』-しゅとう-っていうんだよ」と聞きました。
子供心になにかスマートさを感じるけれど、おだやかな名前じゃないな、と感じました。
酒盗の名付け親は土佐藩十二代藩主の山内豊資(とよすけ)といわれています。
土佐清水で鰹の塩辛に出会った際
「これはよい。これだと酒がいくらでも飲める。酒盗と名づけたらよかろう」と家来にいった。というエピソードが残っています。
酒盗は鰹の腸を利用してその肉や筋をつけ込んで作ります。
塩辛は日本独自の知恵が盛り込まれた嗜好食品

海に囲まれ、豊富な魚資源がある日本では古くから魚の扱いが巧みで塩辛もその一つです。
塩辛づくりの原理は魚の内臓にある自己消化系の酵素、特にたんぱく質分解酵素の作用が主体となっています。
この酵素は漬け込まれた魚介類のたんぱく質を分解して、うま味の主体のアミノ酸を作り出します。
その上、原料特有の生臭みを分解して、熟(な)れた塩味にしてくれます。
いたみやすい内臓を発酵させておいしくて保存性も高まる珍味を作りだすとは、さすがに魚食文化の達人です。
塩辛のあれこれ
いろいろな海産物の内臓、主に腸ですが、自己消化系の酵素があり、これがうま味を出すもとになっています。
カツオの塩辛(酒盗)

かつお節や角煮を作る際に取り除かれた内臓のうち、胃や腸などを利用して作ります。
肝臓などの内臓は脂質の変化や品質低下を招くので使わないということです。
春から夏にかけてとれる脂の少ないカツオの内臓を使うと熟成中の脂質の酸化が少ないそうです。
春から夏にかけてのカツオ、初鰹の記事もご覧ください。
酒盗の名付け親、土佐藩十二代藩主の山内豊資(とよすけ)が酒を盗んででも飲みたくなる酒の肴(さかな)として太鼓判をおしたカツオの塩辛は高知県の名産ですが、他にも茨城県、静岡県、鹿児島県、沖縄県などのカツオの水揚げ地で作られています。
イカの塩辛

左上から白作り、赤作り、黒作り
上の写真は三種のイカの塩辛です。
左上から時計回りに
- 白作り・・・イカの皮をむいて作る
- 赤作り・・・イカの皮ごと作る
- 黒作り・・・皮をむいたイカに墨袋を加えて作る
イカの塩辛にするのは主にスルメイカで、身を細切りにし、肝臓を混ぜて塩漬けにして熟成させます。
米麹(こめこうじ)やみりんを加えたることもあります。
白作り、赤作りの主産地は北海道や東北地方が主産地です。
黒作りは富山県の名産で、江戸時代には加賀藩主の前田家から幕府へ献上されていたようです。
ホタルイカでも作ります。生きたホタルイカをそのまま1~2日、しょうゆに漬け込んで味を染みこませたものが「ホタルイカの沖漬け」
そこにマイカの墨と肝臓を加えたホタルイカの墨作りが富山県の滑川市の名産になっています。

ホヤの塩辛

細切りにしたホヤを使った塩辛です。
ホヤは独特の香りがありますが、オクタノールという物質です。
塩辛も同様で好き嫌いがはっきり分かれる食べものといえます。
塩漬けのホヤは江戸時代からあり、天皇への献上品でもありました。

ホヤ
現在はホヤの養殖が進み塩辛も出回るようになりました。岩手県など三陸地方の名産で土産品にもなっています。
ナマコの塩辛(このわた)

ナマコの腸を原料とした塩辛です。
ちなみにこのわたは「海鼠腸」と書くようです。海鼠でナマコなんですね。
江戸時代には
- 三河のこのわた(愛知県)
- 肥前のからすみ(長崎県)
- 越前のウニ(福井県)
これらは天下の三大珍味とされていました。
塩辛類としてはビタミンAが豊富です。
アミの塩辛

甲殻類のアミ科に属する節足動物などを用いた塩辛です。
発酵のし過ぎを抑えるため、焼酎やみりんなどのアルコールを加えることが多いそうです。
みりんについてはこちらの記事もご覧ください
キムチの調味料としても活躍しています。
アユの塩辛(うるか)
うるかはアユの内臓の塩辛です。
うるかは内臓の使い方で様々な種類の塩辛ができ微妙な風味の違いが楽しまれています。
主産地は岐阜県、富山県、山口県、徳島県、大分県、熊本県などで酒の肴として珍重されています。
多彩な塩辛があります

他にも各地に多彩な塩辛があります
- エビの塩辛
- アワビの塩辛
- タイのわたの塩辛
- サケの塩辛(めふん)
- シオマネキの塩辛(がん漬け)
- ウニの塩辛(がぜ)
各地に伝わる様々な塩辛は質素な庶民の食卓を絶妙な味覚で補ってくれたのでしょう。
【まとめ】酒盗はカツオの塩辛です
カツオの塩辛は酒がいくらでも飲める肴として、土佐藩十二代藩主の山内豊資(とよすけ) が酒盗と呼ぶよう命じた逸話が残っています。
塩辛は魚介類の内臓にある消化酵素の作用を利用した巧みな食文化といえます。
酒盗をはじめ、魚食文化にたけた私たちの先祖は塩辛を大切に味わって、食卓を充実させてきたのでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
〈参考〉
- 河出書房新社:江戸の健康食
- 小学館:食材図典Ⅱ
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
イカの塩辛は新鮮なイカが手に入れば家庭でも作れます。冷凍イカでも作れます。
北海道出身の義母の話では、冬の備蓄食とするため大きな樽で作ったとか。
大量なのでワタを取ったイカは切らずにつけ込み、食べるときに切ったということです。