実りの秋を迎えて新米を味わうとき、日本人としての幸せを感じます。
私たち日本人は弥生時代から、農耕中心の生活をしてきました。田の神を信仰し、農作業の合間合間の節目には、豊作を祈願したり収穫に感謝するさまざまな農耕儀礼をしてきました。
今のように正確な気象観測の技術もなく、農耕機械もなく、農薬もなかった時代には、今以上に異常気象や自然災害の影響を受けていました。
不作や飢きんへの不安を抱えながら農作業を続ける中から数々生まれた農耕儀礼。
その数々をみていきましょう。
農耕儀礼の写真出典はPHP:楽しい調べ学習シリーズ「お米の大研究」です。
目次
冬の農耕儀礼 庭田植え

農作業を始める前の予祝儀礼として、庭田植えが1月15日におこなわれます。
庭に積もった雪を水田に見立てて、松の葉やわらなどを植えて田植えのまねをします。
写真は庭田植えの様子です。その家の主人や家族がおこないます。
おもに東北地方で、小正月の日におこなわれます。
小正月は農作業の始まりを祝うとともに今年の豊作を願う意味を持っています。
骨休めをした正月も今日で終わり、新しい気持ちで新しい年の稲作が始められます。
春の農耕儀礼 水口祭

水口祭(みずくちまつり)は苗の育成が終わり田植えの前の4月半ばにおこなわれます。
稲が無事に無事に育つように祈る播種儀礼(はしゅぎれい)です。
もみを苗まで育てる小さな田んぼである苗代(なわしろ)の水の引き口である水口に土を盛り、木の枝などを立てて、焼いた米などを田の神に供えます。
木の枝は田の神の依り代(よりしろ)になり、焼いた米はもみが鳥に食べられないように守るとされています。
写真は京都の伏見稲荷大社の水口播種祭(はしゅさい)で、苗代にもみをまいているところです。
春の農耕儀礼② 御田植祭

御田植祭(おたうえまつり)は4月から6月におこなわれます。
稲作の作業を再現し、あらかじめ稲作の成功を祝うことで豊作を祈る儀礼です。
今よりも重労働だった田植えを少しでも楽しくと歌いながら作業をしたことが御田植祭の始まりだとされています。
写真は千葉県香取市の香取神宮の御田植祭です。
一般的には田植えの時期におこなわれますが、同様のものが1月から3月頃におこなわれこちらは田遊びとよんでいます。
夏の農耕儀礼 花田植

花田植(はなたうえ)は6月上旬の田植え本番の田植儀礼です。
囃子方(はやしかた)が奏でる笛や太鼓に合わせて田植えうたを歌いながら、早乙女(さおとめ)とよばれる女性が田植えをおこないます。御田植祭と同じく、田植えという重労働を少しでも楽しみながら、そして田の神に豊作を祈る儀式です。
参加者が華やかに着飾ることから花田植とよばれるようになりました。
写真は広島県北広島町の壬生の花田植です。
今よりはるかにきつかった農作業に色を添える華やかな一場面です。
夏の農耕儀礼② 虫送り

虫送りは田植えが終わった後の6月から7月にかけておこなわれます。
農作物につく害虫による被害が出ないことを願う儀礼です。
害虫が活発になる初夏におこなわれることが多いです。
悪霊(あくりょう)に見立てたわら人形を持ち、行列を作りたいまつをたいて夜の村を練り歩きます。
写真は三重県熊野市の丸山千枚田の虫送りです。
害虫の正体を斎藤実盛(さいとうさねもり)という武将の霊として「実盛送り」とよぶ地域もあります。
暗い夜の村を大勢で練り歩く行事に子供たちの心は浮き立ったのではないでしょうか。
秋の農耕儀礼 風祭り

風祭りは大雨や台風の被害が出ないことを願っておこなわれます。
稲の収穫直前になりますし、この頃は台風も多い時期です。
旧暦の立春から210日目になる二百十日(にひゃくとおか)の9月上旬頃におこなわれます。
写真は有名な富山県富山市八尾(やつお)地区の「おわら風の盆」です。
一部の地域では強風を鎮めるため、軒下に風切り釜とよばれる釜を吊す風習があります。
秋の農耕儀礼 亥ノ子(いのこ)・十日夜(とおかんや)

亥ノ子(いのこ)は西日本を中心におこなわれる田の神に収穫を感謝する儀礼です。
子供たちがひもの先につけた亥ノ子石とよぶ石で地面をついて家々を回ります。
写真は愛媛県宇和島市吉田町の亥ノ子です。
関東地方では旧暦の10月10日、今の11月上旬から中旬にあたる頃に十日夜(とおかんや)がおこなわれます。亥ノ子のように子供たちがわらで地面をついたりして田の神に感謝を表します。
宮中でもおこなわれる収穫祭

昔からお米の収穫は農家はもちろん、国としても重要なことです。
そのため、宮中や神社でも、いろいろな稲作関係の行事がおこなわれてきました。
旧暦の9月11日には宮中と伊勢神宮でおこなわれる神嘗祭(かんなめさい)は現在は10月17日におこなわれ、天照大神(あまてらすおおみかみ)にその年に最初に刈った稲穂が奉納されます。
また、11月23日には新嘗祭(にいなめさい)がおこなわれます。この新嘗祭は1300年以上前の飛鳥時代の頃から伝わっている重要な神事です。
五穀を供えることで神様にその年の収穫に感謝を表します。
写真は東京都の明治神宮の新嘗祭に供えられた農作物の宝船です。
なお、大嘗祭(だいじょうさい)は天皇が即位後初めておこなう新嘗祭で、一代一度の大祭となります。
神に供える新穀はあらかじめ卜定(ぼくじょう・吉凶をうらない定めること。「ぼくてい)とも)した地域から奉納されます。
おおなめまつり、おおにえまつり、おおんべのまつりともいわれます。
【まとめ】農耕儀礼はきつい農作業に節目を作る潤滑油

新米を味わうことは日本人の楽しみではないでしょうか。
四季を通しての農耕者のご苦労の上で味わえる新米を得るまでの数々の農耕儀礼には
- 豊作を祈る予祝儀礼
- 豊かな実りを祈る播種(はしゅ)儀礼
- 豊作を祈る田植え儀礼
- 無事な成長を祈る呪術儀礼
- 実りへ感謝を捧げる収穫儀礼 などがあります。
神話の時代から続く農耕儀礼と宮中祭祀の数々は今後も農作業の節目作りとしておこなわれていくことでしょう。
お読みいただきありがとうございました。
〈参考〉
PHP:お米の大研究
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
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