現代は「いも」といえばじゃが芋やさつま芋をイメージするほど生活に密着していますが、古くは「花は梅」のように「芋といえば里芋」でした。秋に収穫され行事食にもなくてはならない里芋についてみていきましょう。
里芋は縄文時代に伝わった
里芋のふるさとはインド東部からインドシナ半島の熱帯地域といわれています。
水湿地でもとから繁殖していた原種があり、それが変化して食用として中国南部で栽培が始まり作物として東西に広まっていったと考えられています。
日本には縄文時代の中ごろに居住地の近くで栽培が始まりました。
タロ芋は同じもの?
原産地から南太平洋方面に伝わったものは「タロ芋」と呼ばれていますが、サトイモ科の総称です。里芋はタロ芋の中の1品種という位置づけです。
里芋は縄文時代は主食だった
水田による稲作は縄文時代に伝来したとされていますが、里芋の栽培はイネより早く始まっています。
「ヤマノイモ」は先輩
里芋の栽培は身近なところで始まりました。山には自生している芋があり区別するために山の自生種を「山芋」、里に近いところで作るので「里芋」としました。
「イネ」は後輩
里芋の原種は熱帯アジアの水湿地で水の多いところを好みます。日本では里芋の栽培が始まった頃は水田で栽培していました。
稲作が伝わったとき、すでに日本では水田を作る技術や水の管理の仕方を習得できていたので稲作の定着がスムーズだったと推測されています。弥生時代に定着した稲作は、その後、農耕民族としての日本人を形作ってきましたが、折々の神事や行事に里芋はなくてはならないものとして扱われています。
里芋を使う行事
神事のお供え
千葉県館山市の「茂名の里芋祭」のように実際に地元で収穫した里芋が主役になる祭りもあります。
他にも収穫時期の神事に欠かせない神饌(しんせん)の一つとして、米・酒の他、地のものとして用いられています。五穀豊穣・無病息災の願いがこもります。
お節(雑煮・煮物)
お正月の雑煮は地方色が豊かな行事食で、一年間の無病息災を願って年神様といただく食事です。
その土地ごとの「海のもの」「山・里のもの」を用います。芋類の代表として里芋が選ばれます。
十五夜の別名「芋名月」の「芋」は里芋のこと
暑さが落ち着き空気が澄んでくる頃の楽しみに月見があります。
月見には「十五夜の月見」と「十三夜の月見」があります。十五夜の月見が先ですが、この頃に収穫時期を迎える里芋をお供えするところから「十五夜の月」を「芋名月」とも呼んでいます。
七夕の短冊も・・・
里芋のふるさとは熱帯です。大雨も降るところから、葉はろう物質におおわれていて水をはじきます。朝、夜露は玉になって葉のくぼみに貯まります。
七夕の日にこの夜露を集めて墨をすり、短冊に願いを書く風習があります。優雅な風習ですね。
衣かつぎ・・・優美な名前です
里芋の子を皮のままゆでたもの。皮をむき塩などをつけて食べる。〈季・秋〉(広辞苑より)
丸のままの里芋の皮にぐるりと包丁目を入れてふかしたりゆでたりすると、つるりと皮がむけます。半分だけむいたものは身分ある女性が外出する際、顔を隠すために衣をかぶった様子(きぬかずきと表記)をイメージしてついた呼び方でしょう。
里芋も優美な響きになるものだと思います。秋の季語になっています。
里芋は囲炉裏が似合う
縄文の昔から親しんでいる里芋は、やはり寒い時期の囲炉裏(いろり)が似合うように思います。実際に囲炉裏端で食事をした経験がない私の中にも、肩を寄せ合うように暮らしてきたDNAが受け継がれているのでしょうか。
とろみを生かした冷めにくく暖まる料理
山梨の「ほうとう」はかぼちゃを入るのが決まり事ですが、他にも特徴があります。それはほうとうも里芋もそのまま使う点です。
生のほうとうは打ち粉がついているのでそのまま鍋に入れるととろみがつきます。里芋も生のまま使うとかなりとろみがつきます。とろみがつくと対流が起きにくいので全体が熱くなるのに時間がかかりますが、一度熱くなると冷めにくく、寒い季節にぴったりの暖まる料理になります。とても合理的だと思います。
里芋の種類
里芋の種類の内、芋の部分、または芋と葉柄(ようへい)の部分を食べるものと、葉柄だけを食べるものの二種類があります。
芋を食べる種類の中でも、親芋だけを食べるもの、親芋と子芋の両方を食べるもの、子芋だけを食べるものに分けられます。
親芋専用の品種
粉質で煮物にむく品種です。子芋は小さくて売り物になりません。 筍芋・京芋など
子芋専用の品種
粘質で一般的な里芋料理にむきます。親芋は子芋・孫芋に養分を奪われて食用には向きません。
親芋・子芋兼用品種
親芋の下や周りに子芋・孫芋ができます。親芋は子芋より粉質で、子芋も粉質から粘質で味がよい品種です。

八つ頭 五霞町商工会HPより
・八つ頭・・・九面芋とも呼びます。子芋が親芋とほとんど同等の大きさになります。それぞれがお頭(かしら)という意味で「八つ頭」と呼び縁起物として正月料理に用いられます。葉柄もずいきとして食べられます。
【八つ頭の下準備】
八つ頭は形が複雑なうえ、身も固いので料理するまでの下準備がなかなか大変です。里芋同様、事前に洗っておいて乾いた状態で皮をむく作業に取りかかることをおすすめします。まな板も乾いた状態で使いましょう。
親芋、子芋、孫芋と分かれている部分に包丁を入れて切り分けてから一つずつむきます。親も子も孫も体積が同じくらいになるように切っていくと均一に煮えていきます。

海老芋 静岡新聞びぶれWebページ
・唐芋(海老芋)・・・関東以南で栽培されています。葉柄も食べられます。京都の伝統料理「芋坊」で使う里芋です。芋坊では、専用に栽培した大きなエビ状の子芋を使っているそうです。
葉柄専用の品種

蓮芋(はすいも)の葉柄はえぐみが少なく、芋は小さくてかたく食用に向きません。葉柄の断面は美しい多孔質で蓮を連想させるところから名前がつきました。
薄く切ってさっと加熱していただきます。切り口がきれいなので色をつけないように仕上げます。
かゆみの元「シュウ酸カルシウム」は里芋の武器
里芋の皮をむくと手がかゆくなります。これは自生の里芋が持っていた自分を守る武器とのこと。イノシシのように土を掘って食べものを探す動物に食べられないように毒成分として持っていたようです。ヒトはえぐ味の少ないものを選んで品種改良を重ねてきましたが、完全にはなくなっていないのです。
かゆくなるえぐ味のもとは「シュウ酸カルシウム」です。細い針のような結晶が含まれていて、皮をむくと細胞膜が破れて中のシュウ酸カルシウムの結晶が手に刺さるためかゆくなるというわけです。加熱するとえぐみ味は消えておいしい里芋料理ができます。
かゆくならずに里芋をむく方法
- 里芋を洗って皮のまま7~10分ほど茹で、冷水にさらしてから皮をむく。
- 皮をむく前に濃いめの酢水に手をつける。
- 洗った里芋を皮付きのまま塩をまぶす。煮崩れも防げます。
かゆくなってしまった場合も酢水につけると中和されてかゆみが引いていくそうです。
私は里芋を持つ方の手にだけ軍手をつけています。滑り止めにもなっています。いろいろ試してみたいですね。
ヌルヌルの正体はガラクタンなどの水溶性食物繊維
皮をむくとぬるぬるします。このヌルヌルは私たちの消化酵素で消化されない水溶性食物繊維。胃の粘膜を保護したりたんぱく質の消化吸収を高めます。血圧を下げる作用もあり、体の働きをよくするために、役立っています。
ねっとりの理由は
里芋のでんぷん粒子はじゃがいもやさつま芋の粒子の数十分の一と小さいものです。加熱するときめ細かく糊化してヌルヌルと相まってなめらかな食感になります。
煮っころがしや衣かつぎなど里芋ならではの料理ですね。
里芋のエネルギーは低い
里芋をじゃが芋・さつま芋と比べると
エネルギーは100g中一番低いですね。水分がじゃが芋・さつま芋と比べると多いのでエネルギーが低くなります。
里芋・・・58Kcal じゃが芋・・・76Kcal さつま芋・・・134Kcal
里芋はカリウムが多い
里芋は芋類の中でカリウムが一番多いといわれています。
里芋・・・640mg じゃが芋・・・410mg さつま芋・・・480mg
確かに里芋のカリウム含有量はダントツですね。
カリウムはナトリウムとバランスを取り合う関係にあります。ナトリウムが過剰になるとこれを排泄する作用があるので、どうしても食塩を取り過ぎる傾向にある日本人にはありがたい芋といえます。
里芋にカリウムが多い理由
カリウムは植物の生育にも不可欠です。葉で光合成により作られたでんぷんは葉脈を通りやすいように分子量の小さいショ糖に分解されますが芋の部分で再度でんぷんとして貯蔵されます。
カリウムはでんぷんに再合成するときに必要な酵素の働きを活発にします。
里芋はほかの芋類よりカリウムを多く必要とするためカリウム含有量が多いと推測されています。
保存方法
極度の乾燥をさけて15℃前後を維持すると長持ちします。冷蔵庫内は温度が低く、乾燥しすぎるので保存には適しません。
下ごしらえ
時間に余裕があるときは洗って土を落とし、ざるにあげて皮を乾かすと滑りにくくなります。
私は切ってから食塩でゴロゴロと周りをこすり、軽く火が通る位に下ゆでしています。ぬめりがかなり出るので吹きこぼれないように注意します。この後、水にとって煮汁で煮ると早く味が染み込み、煮崩れもしにくくなります。
上に記したかゆくならない方法で皮をむくのもよいでしょう。
冷めにくい煮込みうどんのようにぬめりを生かす料理には下ゆでしないで使う方法もあります。
いも煮会

秋になると聞こえてくる各地のいも煮会の模様は町おこしも兼ねた季節の風物詩になっていますね。
いも煮の始まりは二つあるそうです。
一つは江戸時代、最上川で船の積み込み作業をしている人が里芋と干しダラを煮て食べたのが始まりというもの。
もう一つは十五夜の月見で里芋をお供えする風習から始まったという説があります。
そういえばいも煮会は広い戸外で行うイメージがありますね。大きなものでは3万人分をクレーンでかき回して作る大がかりなものがあり秋のニュースになります。
牛肉のほか豚肉を使ったり、味付けもしょうゆやみそなど地域ごとの味があります。
【まとめ】里芋は縄文時代から食文化を支えてきました
長い付き合いの里芋は秋の風物詩となるだけでなく、正月や月見にも欠かせない食べものです。
芋にしては低カロリーな秋の味覚の里芋を煮物や汁物、煮込みうどんなどで存分に楽しみたいものです。
お読みいただきありがとうございました。
〈参考〉
- 小学館:新版食材図典
- 群羊社:たべもの・食育図鑑
- 豊後大野市農業振興課 様のWebページ
- 農林水産省 のWebページ
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
☆文中の栄養価は「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」「同 追補2016年」「同 追補2017年」「同 追補2018年」に準拠しています。
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