さんまは秋の風物詩。大衆魚(たいしゅうぎょ)として江戸時代から庶民の味として親しまれています。
それだけにさんまにまつわることわざがいくつもあります。
季節感が薄れつつある昨今、さんまは強く旬を感じる魚です。
さんまのことわざについてみていきましょう。
さんまのことわざ① 秋刀魚(さんま)が出ると按摩(あんま)が引っ込む

「按摩」とはマッサージ師さんのこと。
言葉のリズム感と語呂合わせ、そして「出る」と「引っ込む」の二つの対比が面白いところです。
さんまの効能がさりげなく出ていることわざですね。
夏の暑さが和らいで食欲も旺盛になる頃、さんまがたくさん出回ってきます。すると体の調子が良くなって、マッサージ師さんにかかる人が少なくなって「売り上げ減」になり、青くなる!というお話です。
「さんまはあんま泣かせ」とともに江戸時代からいわれていることわざです。
さんまのことわざ② 貧乏(びんぼう)秋刀魚に福鰯(ふくいわし)

いわしが豊漁だと実りも多い
日本の周りには赤道付近から北に流れる「黒潮(日本海流)」と北太平洋、千島列島の東沿いに南下する「親潮(千島海流)」が流れています。
黒潮は海水温が高い暖流系、親潮は北からの冷たい海水が流れる寒流系です。
日本にはこの二つの海流がぶつかる潮目が三陸沖にあり、寒流系の魚と暖流系の魚が獲れる世界有数の漁場です。
「貧乏(びんぼう)秋刀魚に福鰯(ふくいわし)」ですが、これは農業者の方の立場からのことわざです。
さんまは寒流に乗って日本近海にやってきます。
寒流に乗ったさんまがたくさん獲れるということは夏の気温が低かった冷夏を意味します。
それはお米の豊作にはつながらない気候です。それで「貧乏秋刀魚」と言ったわけです。
逆にいわしが豊漁の年は暖流の勢いが強い、つまり、暑い夏で、稲がよく実る豊作を約束してくれ、農家に福をもたらしてくれます。
秋の風物詩のさんまですが思わぬところで思わぬ評価を受けていたのですね。
さんまのことわざ③ 秋刀魚は目黒に限る

ごぞんじ、落語「目黒の秋刀魚」で有名なセリフです。
庶民のあじを知ってしまった殿様が場違いのものを誉めるという話ですね。
いろいろなパターンに脚色されているようですがその一つ。
『三代将軍徳川家光公が鷹狩に行き、その日は獲物が多く日暮近くまでかかってしまいました。空腹に耐えかねて近くの目黒の茶屋に 突然立ち寄り、店の主人があわてて出した脂がしたたる焼き秋刀魚の味が忘れられず、後日お城で所望したところ、殿様の胸焼けを心配して手間をかけて脂を落とし骨を抜いた無残な姿の料理を出したため、目黒の味には遠く及ばず、「さんまは目黒に限る」とため息とともに言った』というお話です。
このお話の地元となる目黒区や品川区ではさんま祭りが現在もおこなわれています。漁師さんがいない街でのさんま祭りにユーモアを感じます。
さんまの川柳 秋冷(しゅうれい)がつのって けちな塩秋刀魚
江戸時代中期から末期にかけての柳多留(やなぎだる)という川柳誌に乗った句だそうです。
秋も深まって空気がひんやりとしてくるに従って、南下してきたさんまの脂が落ちて、さっぱりした味になるのをうたった句です。「けち」な味と表現しているところが川柳ですね。
『秋の夜 松茸さんま 熱い酒』という歌もあります。松茸がふんだんにあった昔のこと、松茸とさんまが庶民の味だった様子がえがかれています。今ではとてもぜいたくな情景になっています。時代とともに庶民の味も変わるものですね。
さんまのことわざの核心は脂にあり!

さんまは北太平洋を回遊する日本で昔から親しまれてきた魚です。
いわし・あじとともに大衆魚の代表です。
さんまは秋に産卵のため南下してきます。
秋に獲れる点と形が細長く刀に似ている点から「秋刀魚」と書かれます。
生のさんま100㌘中の栄養価は
- たんぱく質 18.1
- 脂質 25.6 です。
いわしについては以下の記事もご覧ください
さんまは1/4が脂

体の約1/4が脂質ですから、焼くと脂がしたたるのも頷けます。
寒い北の海から来るとはいえ、脂の量も半端ではないですね。
この脂は牛肉や豚肉、鶏肉の脂肪分とは分子構造が異なる「多価不飽和脂肪酸」と呼ばれる脂です。
多価不飽和脂肪酸は分子の中に二重結合が2カ所以上含まれるものです。
青魚に多く含まれている
- ドコサヘキサエン酸(DHA)
- イコサペンタエン酸(IPA)が特徴です。
ドコサヘキサエン酸(DHA)
- 中性脂肪を低下させる
- 高脂血症、高血圧、脳卒中、虚血性心疾患、痴呆を予防
イコサペンタエン酸(IPA)以前はEPA(エイコサペンタエン酸)
- 抗血栓作用
- 中性脂肪を低下させる
- 脳血管障害、虚血性心疾患、高血圧、動脈硬化、高脂血症、皮膚炎を予防
良いことずくめの魚の脂、デメリットは酸化されやすいこと
からだによいとされる青魚の脂ですが、デメリットは不安定な物質なので酸化されやすいことです。対策は酸化を防ぐビタミンEと一緒にとると良いでしょう。
サンマはビタミンEと一緒にとろう
ビタミンEは酸化されやすい成分です。DHAやEPAが酸化される前に酸化されるので魚の脂が過酸化脂質になるのを防いでくれます。
ビタミンEはアーモンドやピーナッツ、モロヘイヤ、かぼちゃ、青菜などの緑黄色野菜、植物油や小麦胚芽に含まれています。
さんまを食べる際には青菜のおひたしなどの緑黄色野菜を一緒に食べると良いでしょう。
さんまは「はらわた」も食べるのが通 加熱はしっかりね

さんまのはらわた=レバーにあたる肝臓は独特の苦みがあり珍味といわれています。
このはらわたにはビタミンA,カルシウム、マグネシウムなどの栄養が豊富です。
新鮮なさんまを塩焼きにしてはらわたまでいただきましょう。なおはらわたを食べる際にはしっかり加熱してください。寄生虫がいることがあります。しっかり加熱すれば大丈夫です。
さんまに塩を振ったらしばらくおく
魚は焼く前に塩を振りますね。塩を振るとグルタミン酸が増えて魚のうま味をさらに引き出します。
また、余分な水分を出して身がしまり弾力が生まれ、食感が良くなります。
浸透圧で塩分が染みこむまで、しばらく待ちましょう。さらにおいしく食べられますよ。
新鮮なさんまの見分け方

7月頃からスタートして12月頃まで続くさんま漁ですが漁のピークは9月・10月。脂がのってもっとも美味といわれます。
さんまは水揚げから3日程は下顎の先が黄色です。これを過ぎると茶色に変わってきます。
下顎が黄色のさんまは即買い!です。
さんまの骨やウロコが青いのは
さんまの骨やウロコの一部が青くなっていることがあります。
これはさんまの内臓にある胆汁酸色素の一種です。「ビリベルジン」という物質です。
ですから青いところを食べても問題ありません。鮮度が悪いとか不純なものや薬品ではありません。
さんまの体表の穴は?

東京都福祉保健局Webページより
さんまの体表にいくつか穴が開いていることがあります。
これは「サンマウオジラミ」という寄生虫の影響です。
サンマウオジラミはさんまの表皮にしがみつき、血液や皮膚の粘液を吸い取っています。
その寄生していた部位が傷跡となって穴のように見えます。この寄生虫は人に感染することはありませんので健康に影響はありません。(東京都福祉保健局より)
【まとめ】秋のさんまを楽しみましょう
秋の使者といわれる「さんま」
冷夏のためにたくさん獲れるのは困ったものですが、新鮮なさんまを塩焼きにして熱々をいただくのが庶民の贅沢です。
体によい脂がたっぷりのさんまを食べて秋を健康に乗り切りましょう。
お読みいただきありがとうございました。
参考
- 全国学校給食協会:食のことわざ春夏秋冬
- 群羊社:たべもの・食育図鑑
- 高橋書店:あたらしい栄養
- 成美堂出版:栄養の基本がわかる図解事典
☆文中の食品名および栄養価は「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」「同 追補2016年」「同 追補2017年」「同 追補2018年」に準拠しています。
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
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