「鯖の生き腐れ」ってどういうこと?

鯖

 

日本の海ではサバがたくさんとれます。世界の水揚げ量の約半分が日本でのものです。

鯖

サバは血液をサラサラにするとか、頭がよくなるといわれる反面、「サバの生き腐れ」ともよばれるじんましんが出やすい魚でもあります。

幸い昨今は船の中ですぐに冷凍されるため、新鮮なまま流通できるようになりましたが、冷蔵施設がない時代はどのような運搬や加工がされていたのでしょうか。

「鯖の生き腐れ」って、まさか生きたまま腐るワケないですよね?

私が子供の頃はまだ家庭に冷蔵庫がありませんでした。あっても氷を入れて冷やす保冷庫です。

ですから水分の多い魚類は塩蔵が多かったですね。お店で常温の中で並べらている、すごくしょっ辛いものでした。

そのような中で「さばの生き腐れ」と聞き、少なからず恐怖を感じたものでした。「生き腐れって、どうして?」と思いました。

サバはヒスチジンが多い

じんましん

サバはアミノ酸の一種のヒスチジンが多く含まれています。サバの死後、海洋細菌によって、ヒスタミンに変化します。ヒスタミンは一定量を超えると中毒症状を起こすことがあります。これは新鮮なサバでも食べるとじんましんなどのアレルギー症状が出ることがあります。これがサバの生き腐れといわれる理由です。

今ほど低温輸送が確立していない時代では、新鮮だと思ったから食べたのに、じんましんが出てしまい、サバにあたったということがよくあったのはそのためですね。

アニサキスにも注意!

また、サバは鮮度が落ちやすい上にアニサキスなどの寄生虫がいることがあります。それで昔からサバは生で食べなかった訳です。

保存のために塩漬け酢じめなどの加工が発達しました。サバを使った料理は郷土料理として受け継がれています。

「秋鯖の刺身にあたると薬がない」

サバの刺身
秋鯖の刺身にあたると薬がないも、サバには気をつけろという警鐘が込められています。

サバに限らず、青魚と呼ばれる魚には酵素が多く、魚が死んだ後も酵素は活性をもっていて、筋肉のたんぱく質をどんどん分解していきます。その結果「自己消化」(自家消化とも)して、腐敗が早まります。

サバのたんぱく質を構成するアミノ酸にはヒスチジンが多く、これがヒスチジン脱炭酸酵素の作用でヒスタミンになり、アレルギーのような症状が出ます。

サバの保存方法としての加工品

ヘシコ

へしこ

サバはごく新鮮なものは刺身にもしますが、一般的には塩鯖みそ煮鯖寿司にして食べます。みそは鯖の臭み消しにもなりよい調理法です。

また、

  • 新鮮なサバをぬか漬けにした「へしこ」
  • 一晩酢に漬けた塩サバで作る「サバ寿司」
  • 「バッテラ」(大阪)
  • 「棒寿司」(京都)
  • 「柿の葉寿司」(奈良)

などがあります。

サバの「文化干し」が不思議だった

なお、塩サバを文化干しとよぶことに長年疑問を感じていましたが、ラッピングの方法からきているそうです。

当時流通し始めたセロファンで干物を包んで並べたところ、おしゃれなのでとても人気が出たとか。それが文化の香りがしたのでしょう。

以来「文化干し」という名が定着しました。今では天日干しに対して冷風乾燥機で人工的に干した干物を区別するため「文化干し」と呼んでいます。

「鯖街道」が物語るグルメ都市 京都

鯖寿司

このように傷みやすい魚の代表といえるサバですが、海から離れた京都でもサバはしっかり賞味されていました。

福井県若狭(わかさ)地方(今の小浜)は日本海に面して海の幸に恵まれたところです。

古くから朝廷に食べものを納めることが許されていました。そのため「御食国(みけつくに)」とも呼ばれていたとか。

鯖街道の碑

鯖街道の碑

若狭から京都までの約80㎞の道のりを鯖街道(さばかいどう)と呼び、多くのサバが運ばれました。水揚げされたものは想像するよりもはるかに短時間で京の朝廷や貴族たちのもとに届いていたと思われます。

もちろん「鯖街道」はサバだけでなく「若狭ぐじ」と呼ばれるアマダイ、若狭がれいなどの他、サバのぬか漬けの「へしこ」なども京都に運ばれました。

しかし、なんといっても「生き腐れ」と呼ばれるサバを速やかに天皇や貴族に運ぶ韋駄天(いだてん)たちのリレーのようなプログラムされた方法があったと思われます。

大阪の「食い道楽」に対して京都は「着道楽」で食事は特筆するものはないようにいわれますが、それは京都特有の表向き情報で、本当は新鮮な海の幸もせっせと運び込まれていたと、歴史小説などでは書かれています。

鯖街道の名残は今でも残っており、終点であった京都の出町柳には石碑が建てられているということです。

生活習慣病も予防します

さばのみそ煮

サバ・イワシ・サンマ・アジなどの背が青い「青物」とか「青魚」と呼ばれる魚は脂肪が多いです。

「鰯の頭も信心から」ことわざの中に見る鰯の実力

魚の脂肪には化学構造で二重結合がいくつかある「多価不飽和脂肪酸」が含まれるのが特徴です。

  • IPA(イコサペンタエン酸)血液の凝固を抑制して血管系のさまざまな病気、脳梗塞や心筋梗塞を予防します。(EPA:エイコサペンタエン酸とも)
  • DHA(ドコサヘキサエン酸)脳を活性化する作用が見出されています。老人性痴呆の予防になるのではないかといわれています。

【まとめ】サバはヒスチジンが多い

サバはヒスチジンが多く、ヒスタミンに変化して、一定量を超えるとじんましん症状が出ます。

先人は日本で大量に水揚げされるサバをいろいろに加工して保存するとともに、注意喚起も同時にしてくれていたのですね。

食卓に青魚の脂を上手に取り入れて生活習慣の見直しをおこないましょう。

お読みいただきありがとうございました。

〈参考〉

  • 小学館:新版食材図典
  • 全国学校給食協会:食のことわざ春夏秋冬
  • 群羊社:たべもの・食育図鑑

☆管理栄養士 すずまり が書きました。

2 件のコメント

    • 泊 様
      このたびは温かいコメントをありがとうございました。
      今後ともどうぞよろしくお願いいたします。asari

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    ABOUTこの記事をかいた人

    管理栄養士のすずまりです。 食べものの文化的な側面など「おとなの食育」の観点から書いています。