お正月の「松の内」が明ける1月7日の朝には「七草粥(ななくさがゆ)」をいただく食文化があります。
この七草粥には「春の七草」をきざんで作ります。
同じ七草でも「秋の七草」は花を愛でるもので食べません。
春の七草は寒さの中から芽を出したばかりの「若菜」です。花は咲きますが地味な花ばかり・・・
昔の人は何を思って春の七草を粥に刻み入れたのでしょうか。
七草を刻む唱え歌には「唐土の鳥」が出てきます。
実は・・・
知れば恐い七草粥の「唐土の鳥」とはどんな鳥なのでしょうか。
唐土(とうど)の鳥ってどんな鳥?
七草粥が一般的になってきて、庶民の間で1月7日の朝に七草をまな板で唱えことばを唱えながら、包丁またはすりこぎでたたくように切りました。包丁は2本使う場合もあるようです。
唱え言葉も地方によって違いがあります。
一般的には
- 七草なづな 唐土の鳥が 日本の橋を 渡らぬ先に
- 七草 七日 唐土の鳥が 日本の土地に 渡らぬ先に
と、若干の違いはありますが、唐土の鳥は共通ですね。これ、刻みながら7回唱えることが多いようです。
ここでいわれる「唐土の鳥」は中国で災いをもたらすといわれる「鬼車鳥(きしゃちょう)」で、この世ではない異界から来た妖鳥であるといわれています。
鬼車鳥はふくろうのような体に女性のような9つの頭を持っていて、人の魂を吸い取るとか・・・
はじめは頭は10あったのですが、犬に食いちぎられて9つになり、食いちぎられたところから血がいつまでもしたたっているそうです。
夜になると飛んできて、取り込み忘れた赤ちゃんの洗濯物を見つけると、目印に自分の血をしたたらせておきます。その血が洗濯物を通して赤ちゃんの魂を抜き取ったり、てんかんを起させたりと、厄災をもたらす怪鳥とされています。
お正月には年神(としがみ)様においでいただいていたのですから、松が取れたとたんに、そんなおそろしい異国の怪鳥、「唐土の鳥」には来てほしくありませんね。
この唱え言葉は豊作と平穏を願う「鳥追い」と同じ意味を持つともいわれています。このような言葉を唱えたり、まな板を叩いて音を立てることで、昔は疫病や流行病(はやりやまい)を追い払う霊力があると思われていたのでしょう。
本来はこのような願いが込められた行事食でしたが、お正月のごちそう続きのあとの食事として、胃にやさしくすぐれているといえます。
七草粥はいつ頃始まったのか

七草粥
七草粥は奈良時代の宮中や神社でおこなわれていた「若菜摘(つ)み」の行事が元になっているようです。

この若菜摘みは宮中でその年の7種類の新しい菜を羹(あつもの)として奉(まつ)る際に使う菜です。
この7種の菜には万病を除く力があるといわれていました。これが後の鎌倉時代に1月7日の行事「七草粥」になりました。
羹は具だくさんの汁物のことです。元は中国の羊を使ったスープのことで熱々にしてお出しする料理です。
羹が熱い理由は以下の記事をご覧ください。
古代の人々は野原に自生する若菜に霊力を感じ、これを食べて生命力の活性化や身近な人の長寿を祈っていたのではないでしょうか。
そして、江戸時代には武家も庶民も七草粥を作るようになりました。
春の七草は江戸時代から変らない

柔らかそうな「春の七草」です
七草粥に使われる「せりなづなごぎゃうはこべら仏の座すずなすずしろこれぞ七くさ」は江戸時代の北村季吟(きたむら きぎん)が詠みました。
北村季吟は江戸時代前期の歌人です。和学者として幕府にも使えたそうです。
古代から宮中で「若菜摘み」として行っていたものを、庶民でも手に入りやすい野草を集めて「五七五七七」のリズムに乗せて覚えやすくしたのではと思われます。
手に入りやすい野草を集めたため、今日まで受け継がれてきた行事食ではないでしょうか。
昨今は、栽培されたものがスーパーで売られていますので、寒い野に出なくても七草粥がいただけます。
七草粥の薬効は・・・
七草粥に使われる野草には
- 利尿効果
- 便秘予防
- 高血圧予防
- ビタミン類を補う
などの効果があります。
セリ
日本原産の野草です。
江戸時代の家庭向け医学書「食品国歌」に
「芹(せり)はよく精を養うて血を保ち、小腸を利し身 熱を去る」とあります。セリに含まれるカリウムが利尿効果を促進し、独特の香り成分が血行改善や胃腸の働きを高めることが明らかになっています。
ナズナ(ペンペン草)
ナズナは日本では雑草として扱われていますが、中国では食用に栽培されています。
花のあとの実が三味線のバチに似ているので「ペンペン草」と呼ばれます。
健胃、止血、利尿などの作用があるとされています。
ゴギョウ(御形・母子草)
キク科の野草です。
せきやのどの痛みをやわらげるとされています。
ハコベラ(はこべ)
日当たりのいい田畑の脇などに多い、柔らかい野草です。ひよこや小鳥のエサに探した記憶があります。
胃腸の働きを整えます。母乳の出もよくするといわれています。
ホトケノザ(たびらこ)
春の七草に使われるホトケノザは「コオニタビラコ」というキク科の多年草だそうで、「ホトケノザ」という植物は別物のようです。
寒い時でも青々としているので「青菜」として摘んでいたのかも知れません。
スズナ(かぶ)
カブのことですが、春の七草での「スズナ」は白いところよりも葉に重点が置かれています。
ベーターカロテンやカルシウム、鉄分が多く含まれています。
また、胃腸を温め腹痛を緩和する作用があるとされています。
スズシロ(だいこん)
大根のことですが「スズナ」同様、根の部分よりも葉が重んじられます。
ビタミンCやカルシウムはほうれん草の約5倍あり美肌効果も絶大です。
七草粥の手軽な作り方
おいしい七草粥を作ってみましょう。
2人分
- 米 ・・・ 1カップ
- だし汁・・・5カップ(水でもよい)
- 春の七草・・・各1~3株
- 塩・・・小さじ1
- 米は軽く洗って水に30分ほど漬けておく。
- 七草は塩ひとつまみを入れた熱湯で、1~2分ほどゆでて水にとり、しぼってから細かく刻む。
- 土鍋か大きめの鍋に水気を切った米とだし汁を入れ、強火にかける。沸騰したら弱火にして、数回かき混ぜる。
- 30分ほどしたら七草と塩を加えてできあがり。
かき混ぜすぎると粘りが出ます。
吹きこぼれに注意して、おいしい七草粥をいただきましょう。
七草がそろわなかったら
セットになったものを買わなくても、「青菜から春のパワーをいただく」ということを考えれば、手に入るほうれん草やみつ葉、春菊、小松菜を使ってもよいのでは・・・
その場合は陽の数である奇数でそろえましょう。
また、「東京は小松菜だけでもよい」と聞いたことがあります。確かに1種類であれば「1」で奇数、陽の数になりますね。
小松菜については以下の記事もご覧ください。
地元特産の青菜があれば、おいしいお粥になると思います。
七種の穀物で炊く粥もあります
平安時代には七草の他に
「コメ、アワ、キビ、ヒエ、ミノ、ゴマ、アズキ」の七種の穀物を炊いて粥にすることもありました。
今でも年によってはいろいろなものを用いた粥が作られているようです。
【まとめ】七草粥で恐れる「唐土の鳥」は妖鳥だった
1月7日の朝に炊く七草粥。七草を刻む唱え言葉にある「唐土の鳥」は中国の伝説の鬼車鳥で人の魂を吸い取って行くとか。
昔から伝わる行事には呪術が含まれていることがあります。
七草の唱え言葉にも豊作と平穏を願う「鳥追い」と同じ意味が含まれています。
このような言葉を唱えたり、まな板を叩いて音を立てることで、昔は疫病や流行病(はやりやまい)を追い払う霊力があると思われていたのでしょう。
実は恐い七草粥の唱え言葉でした。
行事に含まれる呪術については以下の記事もご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
〈参考〉
- ぎょうせい:子どもに伝えたい食育歳時記
- 西東社:薬膳・漢方食材&食べ合わせ手帳
- 家の光協会:和の薬膳食材手帳
- 小学館:新版食材図典
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
「若菜摘み」というのは野に出て若菜を摘むことです。古くは正月を迎えて初めての子(ね)の日におこなっていたそうで、それが後に1月7日の行事になったそうよ。