古事記で語られる稲の誕生

実りの秋

 

「食」だけでなく生活全般にわたって洋風化している現代にあっても、日本人の心のよりどころは「実りの秋を迎える」ことではないでしょうか。

新米を得るまでの農耕儀礼

稲を始め五穀の始まりはどのように語りつがれてきたのでしょうか。

古事記に書かれた稲の誕生

この世界や生きものの始まりを想像力を働かせて物語に綴ってきたものが神話です。

日本の神話は奈良時代に作られた歴史書「古事記」です。

古事記には稲をはじめとする穀物の始まりが書かれています

お米の始まりはどうだったのか意外な展開をみていきましょう。

スサノオはとんでもない乱暴者だった

天岩戸

古事記によると、稲が生まれたのは意外なことからでした。

この世界の最初にイザナギとイザナミの男女神が日本の島々と数々の神様を生みます。

その中に太陽神である「アマテラス」、月の神である「ツクヨミ」弟の「スサノオ」がいました。

アマテラスの太陽神に対してスサノオは雨の神としての立場を与えられています。

農耕者にとって太陽と雨は特に大切なものです。アマテラスとスサノオの神話は太陽と雨という、人間生活の基本の自然神が誕生したという物語となっています。

弟のスサノオはさまざまな「禍(まが)」を一心に背負わされて造形された神として書かれ、彼が行動するとさまざまな凶事(まがごと)が起こりました。

天安河原

天安河原

乱暴でどうしようもない行いばかりをするので、とうとう姉のアマテラスが怒って身を隠し世界が暗くなってしまう「天の岩屋戸(あまのいわやと)神話」が始まります。

暗くなってしまって困った神々が相談した場所が天安河原(あまのやすがわら)。今も独特の雰囲気を醸(かも)しています。

一計を立ててアメノウズメの面白おかしい踊りが始まります。

高天原を追われたスサノオが向かった先は

神々に混じってそれを見ていたところをあっさりつかまったスサノオは持ち物を取り上げられた上、手足の爪をはぎ取られて高天原(たかまがはら)を追い出されました。

追われたスサノオは「ネ」の国、亡くなった母の国へと歩いていました。

そこへサルが一匹あらわれて「お迎えにまいりました」といいます。

ついて行くとさまざまな料理が並べられ不思議な味のする酒もありすっかり良い心地です。

「こんなさまざまな料理をどこで知ったろう」

とサルに聞くと、大女の神から習ったと言います。

スサノオは食べても食べても満足できなかったので、その大女の神がいるところに行くことにしました。

オオゲツヒメの料理がすごい!!

「サルはあなたのまねをしておいしい料理を作っています。あなたはそれよりおいしく作るのでしょう」とスサノオは持ちかけてこの国一番の料理人のオオズケヒメに料理を作ってもらうことにしました。

稲の穂

稲の穂

オオゲツヒメは「作り方をサルに教えられたくないから、絶対に作っているところをのぞかないこと」と約束させました。

オオズケヒメは相手に爪がないことをみて乱暴者のスサノオだと気がつきましたが顔色には出さないようにしました。

しかしオオゲツヒメの目にあやしさを見て取ったスサノオは料理も佳境に入って夢中で作っているところを忍び込んで料理場をのぞきました。

そこでスサノオは意外な光景を見てしまいました。

オオゲツヒメは大きな体をかがむようにすると、尻から糞を取りだして皿に置きました。

次にクンと手鼻をかむと鼻汁を一枚の皿に出しました。

ついでカッとへどをはいて一枚の皿に置きました。

そしてかたわらのつぼから何種類かの粉を振りかけました。

スサノオはすぐさま飛びかかろうとしましたが、そっと戻りました。

アワの穂

アワの穂

やがて料理が運ばれました。スサノオは「これは見事な料理です。でも初めて見るので食べ方がわかりません。オオゲツヒメ、まずあなたから食べてみてください」

オオゲツヒメの顔色が変わりました。

スサノオは「こんなものはサルにも食べさせられない!」と三枚の皿を素早く取って岩壁に投げつけ、すぐさまオオゲツヒメを押し倒して息の根を止めてしまいました。

稲は神様の死体から生えてきた!

小豆

小豆

オオゲツヒメの息が止まるとき体がかすかに震えました。そして頭からはかいこがはい出ました。

二つの目からはが伸び、たちまち実りました。

二つの耳からはアワが生え、実がつきました。

麦の穂

麦の穂

鼻からは小豆(あずき)が出て、実がたれました。

足のまたの前からはがのびて穂を出しました。

またの後ろからは大豆(だいず)が生えて実を連ねました。

これを見てスサノオは「見事、見事。これが本当の料理だ。オオゲツヒメ、みんなもらっていくわい」

大豆

大豆

と、持ち帰ろうとしたところ、天に声がしました。聞いたことのないおごそかな響きです。

「わたしはカミムスビ穀物のできるのを見守っている神だ。その実はおまえに半分だけやろう。半分はそこへおいていけ」

スサノオは思わずひざまずき、半分おいて谷間へ下っていきました。

スサノオは300年で好青年に生まれ変わった

川の真ん中の岩にはオオゲツヒメのところに案内した、かの年老いたサルが出迎えていました。

スサノオは「良いお土産があるぞ」とサル山全体に聞こえるように言いました。

サルとの食事のあと、しばらくサルたちの仲間入りをして遊び暮らすうちすっかりこの山が気に入り300年も過ごしてしまったそうです。

その頃になると乱暴者だったスサノオもすっかり見違える好青年なりました。そして神話の世界は上の巻のクライマックス、八岐大蛇(やまたのおろち)のお話に続いていきます。

植物は枯れて命が再生する

このオオゲツヒメのお話は古事記の上中下とある三部のうちの「上の巻」の終わりの方に出てきます。

死んだ体から新しい命が生まれてくると言うのは秋に枯れた草木が春に再び芽を出す、植物の命の再生を連想させてくれます。

オオゲツヒメの死と引き換えに生まれ出た穀物が今も続く「五穀」としてカミムスビの神が豊穣を見守ってくれているのでしょう。

お読みくださりありがとうございました。

〈参考〉

  • 講談社:日本のもと 米
  • 講談社:世界名作全集 日本神話物語
  • ちくま学芸文庫:日本の神話の世界

☆管理栄養士 すずまり が書きました。

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管理栄養士のすずまりです。 食べものの文化的な側面など「おとなの食育」の観点から書いています。