数の子はニシンの卵巣を加工したもので、生の数の子を乾燥させた干し数の子、塩漬けにした塩数の子が代表的です。
卵巣には数万の卵があります。数の子は子孫繁栄の縁起物としてお節料理に欠かせないものとなっています。
数の子は子孫繁栄を願うお節の定番縁起物

お節料理は色とりどりに海のもの、山のものを詰め合わせますが、その中で数の子は子孫繁栄を願うシンボルとなっています。
「二親(ふたおや)」と書いて「にしん」と読ませることができ、また、卵は無数といってよいほどの数から「たくさんの子供に恵まれますように」「子々孫々、栄えるように」との願いが込められています。
雑煮が地域によって多岐にわたるのに対して、お節の定番は地域差が少なく、数の子は定番中の定番となっています。
数の子はおとそと一緒にいただく祝い肴

祝い肴三種 カネハツ食品(株)より
祝い肴は数あるお節料理の中でも特別です。
元旦の朝、お屠蘇(とそ)をいただくときに出される肴です。
海のものと山のものを合わせ、さらに陽の数である奇数の三種をそろえた肴です。
関東と関西ではちょっと違うそうです。
関東の祝い肴
- 黒豆
- 数の子
- 田作り
田作りはカタクチイワシの小さいもので「ごまめ」ともいいます。昔は田んぼにすき込んで肥料にしたようで、そこから「田作り」といわれます。
稲の豊作を願う意味が込められています。お正月には甘辛のタレをからめて肴にします。
関西の祝い肴
- 黒豆または田作り
- 数の子
- たたきごぼう
たたきごぼうは神様にお供えした神饌(しんせん)から発展しています。
固いものをいただいて、1年間、しっかり噛んで食べられるようにとの願いを込めています。
どちらにも数の子は入っていますね。おめでたいにプラスして、「お屠蘇や御神酒(おみき)に合う」ということもあるのでしょうか。
祝い肴については下記の記事もご覧ください
数の子は祝い肴の他に、松前漬け、わさび漬けに数の子を加えた「山海漬け」などが知られています。
松前漬け

大きな数の子が入った松前漬け
松前とは北海道渡島(おしま)半島の南西端にある町です。
松前氏の旧城下町として近世、海産物の交易により栄えました。
昆布もするめも数の子も取り扱ったことでしょう。これらに細く切ったにんじんなどを合わせて調味しょうゆに漬け込みます。
昆布もするめもよい味が出ます。昆布からは粘りも出て、味が均一になじんでくると食べ頃です。ご飯が進みますね。
山海漬け(さんかいづけ)

わさび漬けと数の子が出会った「山海漬け」
わさび漬けに数の子やクラゲの細切りなどを加えたもので、わさびの辛みが和らいでいるものが多いです。
わさびの産地の近くで作ることが多いようです。
塩分が強い塩数の子なら山間地にも運べますから、海のもの山のものの取り合わせができたのでしょう。
数の子がたくさん入った「特選山海漬け」はおいしいですよ。
子持ち昆布もおめでたい

初めて子持ち昆布を見たとき、あまりのびっしり加減にびっくりしました。
ニシンのお腹から昆布に産み付けられた卵は流されてしまわないように、ちゃんとくっついているのですね。
ニシンの卵には粘り気があって、しっかりと海藻に付着して、孵化(ふか)するまで離れることはありません。これだけの数の卵が一斉に孵化すれば群れになっていられるので、流されてどこかで1匹だけで孵化するより生存の確率が上がります。
もともと昆布も「よろこぶ」「よろこんぶ」との語呂合わせで、おめでたい食品としてお節に欠かせない食材です。そこに子孫繁栄の数の子がついているのですから二重におめでたいものになります。
手に入ったら、お節に加えたいですね。
数の子の加工は・・・?
数の子はニシンの卵巣を加工した製品です。加工方法はいくつかあります。
干し数の子
生の原料を塩水で洗い、血抜きをしてカチカチになるまで乾燥させた干し数の子は冷蔵庫がなかった時代に保存性を高めるためよく使われていました。
戻すときは米のとぎ汁に2~3日つけておきます。
第二次世界大戦前後までは干し数の子が主流でしたが、食べるまで手間がかかることや製造にコストがかかるので、最近はあまりみなくなりました。
手間がかかる分、価格も高く高級品とされています。
塩数の子
塩数の子は塩水で洗った後は水気を切って塩漬けにしたものです。
独特の歯ごたえがあります。「数の子は音を食べるもの」とさえ言われています。
塩数の子用として主にアメリカやカナダから輸入しています。価格は高めです。
味付け数の子
血抜きした後、調味液に浸けたものです。
主に東カナダの大西洋等で獲れたニシンを加工し、冷凍されて輸入されます。
すでに味が染みこんでいるので手間いらずで食べられますが、塩数の子に比べて歯ごたえが少なくなっています。
おいしい数の子の見分け方

お正月の縁起物の数の子はおいしいものを選びたいですね。いくつかポイントをあげてみましょう。
- 見た目が鮮やかできれいな黄金色で透明感がある
- 身が欠けておらず、大きくふっくらとしている
- 薄皮がついている
上記の3点は塩抜きしていない、鮮度が落ちていない数の子の特徴です。塩抜き前で、乾燥しないように気をつけて冷蔵すればかなり日持ちしますが、やはりおめでたい雰囲気のうちに食べきりたいものです。
黄色いダイヤを買い占めた商社の末路

北海道 鰊(にしん)御殿
もう40年近くも前のことを出すのはどうなの?と思いますが、数の子に関してどうしても忘れられないことがあります。
北海道の江差が「江差の春は江戸にもない」といわれるくらい、ニシン漁で賑わった時代がありました。
数の子も豊富に手に入り、お茶うけとして漬物のようにバリバリと食べていた時代が長く続いたそうです。
昭和も30年代40年代とだんだんとニシンの漁獲が減ってきても、やはり正月には数の子を用意したいと思う家庭は多く、それに乗じる形で価格が高くなり、だんだんと庶民には高嶺の花になっていきました。そして「黄色いダイヤモンド」と呼ばれるまでになってしまいました。
昭和52年にはまだ職場でも「今年も買った」という声がほとんどだったのですが、53年になると「今年はもう買わない。高すぎる」という声がちらほら出始めました。
それでも私は「縁起物だから」と数の子を購入し、正月用に用意しました。反面、「買わないという選択肢もあるのか」とも思いました。
そして昭和54年の暮れ、数の子はさらに高騰していました。
さすがの私も「もういい!もう買えない。そこまでして買わなくてもいいよね」と思うに至りました。それほど高くなっていたのです。
同じように思う家庭が多かったのでしょう。とうとう昭和55年の正月明けに買い占めていた水産専門業者が倒産したというニュースが流れました。
「なんと!買い占めていたのか!!」
「高くても縁起物だから買うだろうと思っていたのか」
「主婦をなめていたのか?」
「倉庫の数の子はどうなるのだろう?」
などの考えが頭をめぐりました。
何事も「あなたもよく、私もよく」のバランスが大切なのだと、まだ若かった私は思ったのでした。
【まとめ】数の子はお節に欠かせない子孫繁栄の縁起物
お節料理に欠かせない数の子は関東でも関西でも三種の祝い肴に入っている定番中の定番の縁起物です。
子孫繁栄の願いがこもった数の子をぜひともお正月にいただきたいですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
〈参考〉
小学館:食材図典Ⅱ
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
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