鉄が自然にさびていくように、私たちの細胞壁にくっついて老化を招くという活性酸素。
私たちの身体にはもともと、この活性酸素のはたらきを抑える抗酸化物質がありますが、それも年齢とともに機能が衰えてきます。
近年、研究が進み、この活性酸素と戦ってくれる「ファイトケミカル」を取り入れることがトレンドともなっています。
この記事では活性酸素をなかったことにするファイトケミカルとその抗酸化作用について解説します。
※「ファイトケミカル」は「フィトケミカル」ともよばれています。
目次
活性酸素がする悪さ!
白髪、シミ、しわ、たるみ・・・若いときには考えられなかったこれらの変化。老化ですね。
老化は見てわかるところだけでなく身体の内にもじわじわ押し寄せています。
血管の詰まりからおこる動脈硬化
血糖値の調節がうまくいかなくなることによる糖尿病
体内の出来そこないの細胞を見逃しておこるがん
これらも老化とみられ、さらに活性酸素が原因であることもわかってきています。
活性酸素のすがた
私たちは生きている限り呼吸をしています。息を吸って、酸素を体に取り込んで、いろいろな反応に使ったあと、4電子還元された水として呼気と一緒に出しています。
ですが、いつもいつも酸素分子に4つの電子がきっちり渡されるとは限らない状態も出てしまいます。4電子還元されていると安定した状態なのですが、不完全に還元されると電子的に不安定な状態になります。この状態が活性酸素です。
活性酸素は安定した状態になりたいので、体内にある糖質、脂質、アミノ酸などと結びつき酸化させていき、体内に悪影響を与えてしまいます。
酸素の電子が1つ還元されたもの
スーパーオキシドアニオン
人の体内でもっとも多く発生する活性酸素です。他の活性酸素と比べると反応性が低いので、体に与える影響も少ないと考えられています。
酸素の電子が2こ還元されたもの
過酸化水素
スーパーオキシドアニオンにさらに1電子還元されたものです。
2個の酸素電子が2この水素と結合して一応安定しているので、このままでは酸化力は大きくありません。
酸素の電子が3こ還元されたもの
ヒドロキシラジカル
過酸化水素にさらにもう1この電子が還元されると酸素原子(O)と酸素原子(O)の間は安定できなくなり、結合が切れて凶暴といわれるヒドロキシラジカルになります。
ヒドロキシラジカルは活性酸素の中でもっとも反応性が高く、酸化力も強いものです。糖質、脂質、アミノ酸(たんぱく質)など近くにあるものと結びつこうとし、体への影響がもっとも強い活性酸素です。
以上の活性酸素は電子的に非常に不安定で、ほかの何かと反応しやすい状態にあります
脂質と反応すると
脂質と結びつくと脂質過酸化物となり、動脈硬化、心筋梗塞の原因になります
たんぱく質と反応すると
酵素や受容体に影響が出ます
核酸と反応すると
DNAの鎖の切断等により発がんなどをもたらします
活性酸素が関連しているだろう疾病
動脈硬化、心筋梗塞、がん、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、白内障、気管支喘息、潰瘍性大腸炎、糖尿病、自己免疫疾患など多岐にわたります。
ファイトケミカルがはたらくしくみ
1、細胞内に活性酸素が生成される
放射線や化学物質などの外的な要因、大気汚染、たばこの煙などや、体内の炎症、エネルギーの生産などで酸素の電子が不安定な状態になり、活性酸素になる。
2,細胞が損傷を受ける
活性酸素は細胞のなかのたんぱく質、DNA、細胞膜の脂質から電子を「盗む」ことで安定しようとするが、同時に細胞が傷つけられる。
3,抗酸化作用が働く
ファイトケミカルの抗酸化物質にはたくさんの余分な電子があるのでそれらを使って、次々に生産される活性酸素を中和していくことができる。
ファイトケミカルの種類
ファイトケミカルは天然に存在する「化学物質」で抗酸化作用があるものです。
「ファイト」はギリシャ語で「植物」をさします。現在約4000種のはファイトケミカルがあるといわれています。
ファイトケミカルは五大栄養素のように、欠乏症があるわけでもありませんが抗酸化作用に優れています。
炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルに続く「栄養素」ともいわれています。
以下はファイトケミカルの主なものです。健康効果があるとされているものもありますが、研究の途中でもあります。
ポリフェノール類
細胞を外敵から守りいつまでも若々しく保ちます。
植物の外皮に多く含まれます。
OH基という化学構造を持つものの総称です「ポリフェノール」という物質があるわけではありません。
約300種類に分けられます。
外敵が襲ってきても植物は逃げられません。そこで外皮に敵と戦うための成分を備えているというわけです。この成分が私たちにも効果をもたらせてくれています。
肉やバターをたっぷりと摂るフランス人が赤ワインのポリフェノールのおかげで虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症など)にかかる人が極端に少ないといわれています。
同じ働きをするビタミン類よりもパワーは強く、細胞の老化をストップさせ、老化防止に働きます。
ポリフェノールは苦みや渋み、アクの元であり、色素成分です。
食べて30分ほどで体内で働きますが効果は2~3時間。こまめに摂りたいですね。
アントシアニン

アントシアニンは青紫色の色素です。
目に効く栄養素として知られています。目の疲れをとり視力をアップさせます。さらに肝機能も向上させます。
【含まれる食べもの】
赤ワイン、ブルーベリー、ぶどう、すいか、赤キャベツ、紫いも
カテキン

お茶を飲んだときに感じる渋み成分です。
抗酸化作用がとても強く、ビタミンCの10倍、ビタミンEの80倍あるとか。
がん細胞が増えるのを抑える他、コレステロールや血圧、、血糖値を下げます。生活習慣病に最適です。
殺菌作用、口臭予防、食中毒予防も期待できます。
【含まれる食べもの】
緑茶、ウーロン茶
カカオマスポリフェノール

抗酸化作用のほか、アレルギーを抑えたり、イライラやストレスを弱める働きがあります。
近頃はカカオの量を増やしたココアやチョコレートが各種発売されています。甘くない大人向きの製品です。
【含まれる食べもの】
ココア、チョコレート
ルチン

血管を強くしなやかにします。その結果脳卒中など出血にかかわる疾病に効果があります。
血圧を下げる効果もあります。
【含まれる食べもの】
そば、トマト、オレンジ
フェルラ類

酸化防止剤として使われるほど抗酸化作用が強いのがフェルラ類です。美白効果もあるため、化粧品にも使われています。
【含まれる食べもの】
玄米、米ぬか、発芽玄米
フラボノイド類
ポリフェノール類の中の1種です。
化学構造の違いでいろいろな分類に分けられます。
はたらきは抗酸化作用です。
他に血糖値や血圧を正常に保つ役割もあり、現代人がぜひ摂りたい成分です。
フラボノール類
たまねぎ、ほうれん草、パセリ、ケール、りんご、そば
フラボン類
カモミール、セロリ、パセリ、ピーマン、春菊、しそなど
イソフラボン類

女性ホルモンのエストロゲンと同じように働きます。閉経後の女性は女性ホルモンが激減するため更年期障害の症状が現れますが、イソフラボンはそのような不快な症状を和らげてくれます。
サプリメントで多く取り過ぎると、体内の女性ホルモンとのバランスが崩れることがありますので、普段からの食事で補うことを心がけたいものです。
【含まれる食べもの】
大豆、豆腐、豆乳などの大豆製品
フラバノン類

柑橘類に含まれるフラバノン類です。
毛細血管を強くします。出血性の疾患を防ぐほか、アレルギーの症状を抑えるはたらきがあります。
肥満を防ぐ効果もあります。
【含まれる食べもの】
レモン、みかん、グレープフルーツなどの柑橘類
その他にもポリフェノールに分類されるファイトケミカルにはごまのリグナンなど、多岐にわたります。
カロテノイド類
緑黄色野菜やえびなどに含まれる脂溶性の鮮やかな色素成分で老化から体をバリアしてくれます。
動物や植物など、多くの食べものに含まれます。
赤やオレンジ、黄色などの色素で600種以上に分類されています。
- アルコールに溶けないカロテン類
- アルコールに溶けるキサントフィル類の二つに大きく分けられます。
作用はポリフェノール類と並ぶ強い抗酸化力です。
動物や植物は表面から色素を出すことで紫外線から身を守ろうとします。
とくに植物の色素は人間の体内の入ると活性酸素を生み出す紫外線から身を守るフィルターとしてはたらき、肌にシミやシワができるのを防いでくれます。
カロテノイドはいろいろな種類を摂ることで効果が増します。食卓がカラフルになるほど抗酸化作用もアップします。
β(べーたー)-カロテン

抗酸化作用が強いのはもちろん、必要に応じてビタミンAにかわります。
粘膜を丈夫にするため、のどや肺などのがんの予防に効果があります。
また、体内の脂肪組織にβ-カロテン量が多いと心臓病にかかりにくいともいわれます。
【含まれる食べもの】
にんじん、ほうれん草、かぼちゃなどの緑黄色野菜
リコピン

トマトの赤い色の成分です。真っ赤に熟したものほど多く含まれています。
ビタミンEの100倍もの抗酸化作用が特徴です。
トマトをよく食べる北イタリアの人々は他の地域に比べ消化器系のがんの発生率が6割卯も低いことがわかりました。リコピンの強さがわかりますね。
熱に強く、油に溶けやすいので効率よく摂るにはイタリア料理はうってつけです。
【含まれる食べもの】
トマト、すいか
クリプトキサンチン

β-カロテンの5倍もの抗酸化力があります。
温州みかんにはオレンジの100倍のクリプトキサンチンが含まれます。
【含まれる食べもの】
柑橘類
カプサンチン

赤ピーマンの赤い色素がカプサンチンです。抗酸化作用の他に善玉コレステロールを増やします。
動脈硬化の予防に最適です。赤ワインなどのポリフェノールと一緒に摂ると効果がアップします。
【含まれる食べもの】
赤ピーマン、赤とうがらし
ルティン

ルティンはとうもろこしなどに含まれ黄色の色素成分です。網膜にある視力をつかさどる黄斑を紫外線から守り、酸素をブロックします。
お年寄りの失明の原因になる加齢性黄斑変性症を予防する効果があります。
【含まれる食べもの】
ブロッコリー、ほうれん草、キャベツ、とうもろこし、そば
イオウ化合物
ユリ科、アブラナ科の植物の、ツンとした香りに含まれるクセのある成分で、抗酸化作用と殺菌作用があります。
にんにくやたまねぎを切ったときのツンとくる香りがイオウ化合物です。
他にも大根などのアブラナ科の植物にも含まれています。共通しているのはどれも香りが強い点です。
硫化アリルやアリシンの他、らっきょうのジアリルスルフィド、にんにくやたまねぎのアリスメチルトリスルフィドなどがあります。
イオウ化合物の作用は強い抗酸化作用です。
活性酸素のはたらきを抑えてがんを予防するほか、殺菌作用があります。また、免疫力を高める作用もあります。
注意点は刺激が強いので食べ過ぎないこと。熱を加えると刺激がマイルドになります。
硫化アリル

硫化アリルはたまねぎを切ったときに目が痛くなる成分です。
抗酸化作用の他に血液をサラサラにして、血栓をも溶かす作用があります。脳血栓や心筋梗塞を予防したい場合によいでしょう。
発がん物質を解毒するほどの強い殺菌力があり、胃がんの原因になるピロリ菌に対しても威力を発揮してくれるそうです。
【含まれる食べもの】
にんにく、たまねぎ、ニラ、ねぎ
アリシン

アリシンはにんにくの強烈なにおいの元です。
殺菌作用も強く、体内で有害物質やウイルスと戦うナチュラルキラー細胞を活性化させ、細胞のがん化を防ぎます。
さらにアリシンが分解する際にできる含硫アミノ酸も有害物質に働きかけるため、ダブルで効果が期待できます。
ビタミンB1と一緒になると拾う回復に効くほか、膵臓にはたらきかけて、糖尿病にもよい効果をもたらします。
【含まれる食べもの】
にんにく
イソチオシアナート

大根の辛み成分です。活性酸素を減らすはたらき以外にも、血液をサラサラにする効果があります。
抗血栓のほか、動脈硬化の予防にも最適といわれています。
【含まれる食べもの】
大根、ブロッコリー、キャベツ
硫化プロピル
血糖値を低くするはたらきがあるため、糖尿病の予防に最適です。
加熱するとトリスルフィドという物質に変化し、コレステロールを下げる作用がアップします。
さらに熱を加えるとセパエンとよばれる物質に変化し力が強まります。
【含まれる食べもの】
たまねぎ
S-メチルシステインルホキシド

胃の粘膜を補修し、痛みや炎症をやわらげます。胃潰瘍や十二指腸潰瘍に効果的です。
【含まれる食べもの】
キャベツ
サポニン
人のステロイドとホルモンに似ている物質です。
コレステロール値を下げ免疫機能を上げるといわれています。
抗菌作用と抗真菌の作用について研究されています。
【含まれる食べもの】
大豆、エンドウ豆、キヌア、ヤムイモ、朝鮮人参
テルペン
防腐、抗菌、抗酸化、抗炎症の作用があるとされています。
【含まれる食べもの】
柑橘類の皮、サクランボ、ホップ、ハーブ類(ミント、ローズマリー、ベイリーフ、オレガノ、セージなど)
ファイトケミカルが含まれる食べもの
いろいろな食べものにファイトケミカルが含まれ役立っていることをみてきました。
含まれている食品を表でまとめますと以下のようになります。
ファイトケミカルが含まれているか | |
穀類 | △ |
肉・魚 | × |
牛乳・乳製品 | × |
豆・豆製品 | ◎ |
野菜・果物 | ◎ |
きのこ・海藻 | ◎ |
◎・・・多い △・・・あまり含まれない。食品や成分によっては多い ×・・・少ない
やはりいろいろな食品を組み合わせて食べることでバランスのよい食事になります。
【まとめ】ファイトケミカルは天然の化学物質。抗酸化作用は電子的に安定させることで発揮
おもに植物性の食品に含まれる色素や香り、アクの成分などの化学物質はファイトケミカルとよばれています。
体内で抗酸化作用、免疫力向上、体内浄化といったはたらきをします。
マラソンなどのように運動するためにたくさん酸素を取り込むのは活性酸素を増やすことになると走ることを控えた知り合いがいました。今後、研究が進んで日常生活との関連も明らかになっていくことを期待します。
ファイトケミカルはまだ五大栄養素のように代謝のしくみや摂取基準が明かではありませんが、人による介入実験や動物実験などで健康効果が確認されてきていて、近年注目が集まっています。
お読みいただきありがとうございました。
〈参考〉
- 日本医科大学:中村成夫先生「活性酸素と抗酸化物質の化学」日医大医会誌2013.9(3)
- 創元社:ひと目でわかる食べ物のしくみとはたらき図鑑
- 日本文芸社:栄養を知る事典
- 高橋書店:あたらしい栄養学
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
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