昔々、旅をするお坊さんはいつも干し柿を持ち歩いたそうです。
そして行き倒れた旅人に食べさせて元気にさせたりお腹をこわした人、けがをした人、刀(かたな)きずに苦しむ人を元気にさせてきたそうな。
ラテン語では「神の果実」といわれるほど役に立つ果物です。
柿は暮らしに根付いた日本を代表する果物で、秋の山野の景色になくてはならないものですね。
明治期のこと、外国から来た人が葉を落として熟していく柿を見て「甘くて赤く、ピカピカ光る不思議な食べもの」と評した柿の効果・効能と柿のあれこれについて見ていきましょう。
柿の効果・効能

古い昔から旅の携行食だった干し柿。
柿は栄養価値や保健上の長所についていろいろと知られていました。
漢方や仏教の中ではいろいろな効能についてうたわれています。
柿の実はもちろん、へた、葉、樹皮、さらに“渋”と使い分けられてきたそうです。
薬膳の見方での主な効能をあげると
- 熱を冷ます
- 口の渇きをうるおす
- 尿の出をよくしてむくみを改善
- 胃腸の働きを活性化し、消化不良を改善
- 血止め・やけど・しもやけを改善
現代の食品学でもいろいろなことが分かっています。
- ビタミンCが豊富なので風邪の予防
- タンニンはコレステロールを低下させて高血圧の改善に働く
- たんぱく質凝固作用で虫歯菌・o-157などを殺菌・抗菌
- 渋柿を傷にあてて血止め
- 柿渋で防腐
- 解熱効果
- 消化を促進させる酵素がある
- 渋みの成分のタンニンは下痢を緩和
- 二日酔いにも効果的(熟した柿はアルコールを分解する酵素を含むため)
- 色素成分(β-クリプトキサンチン)に発がん抑制作用
- 免疫力がアップする
生で食べると鼻・耳の気のめぐりがよくなるといわれます。
また疲労や衰弱の改善にも役立ちます。

難点は体を冷やす作用が強いことです。先人は日に干すことでその作用を和らげました。
もちろん生の柿だけでなく干し柿も胃腸を丈夫にして消化を助ける働きがあります。血液のめぐりをよくしてシミやそばかすの改善もしてくれるとか・・・
干し柿の白い粉を柿霜(しそう)と呼び漢方で用いてきました。
心臓や肺の熱を冷まし乾きを和らげ、また、痰(たん)を除き、のどや舌の腫れ物にも有効とされています。
柿の成分の特徴

柿は酸味がなく、かなり甘い果物です。
甘みはエネルギーに変わりやすい、ショ糖、ブドウ糖、果糖です。
きれいな色の色素はカロテン(ビタミンA)です。カリウム、ビタミンCも豊富です。
以下の表で甘柿・渋柿・干し柿と、参考までにりんごと日本梨を比べてみましょう。
100gにつき | 甘柿 | 渋柿 | 干し柿 | りんご | 日本梨 |
エネルギー(㎉) | 60 | 63 | 276 | 57 | 43 |
水分(g) | 83.1 | 82.2 | 24.0 | 84.1 | 88.0 |
炭水化物(g) | 15.9 | 16.9 | 71.3 | 15.5 | 11.3 |
食物繊維(g) | 1.6 | 2.8 | 14.0 | 1.4 | 0.9 |
カリウム(㎎) | 170 | 200 | 670 | 120 | 140 |
ビタミンC(㎎) | 70 | 55 | 2 | 4 | 3 |
干し柿については水分量が異なるので単純に比べられませんが、同じ頃に食べ頃を迎えるりんごや梨と比べると、ビタミンCがとても多いことが分かります。
甘柿と渋柿はなにが違うのか
柿の渋みは果肉に含まれる可溶性のタンニンによるものです。
甘柿も渋柿も幼果期にはすでにタンニンがあり、渋さを感じます。
甘柿は木で熟していく過程でタンニンが水に溶けない不溶性タンニンに変わるので渋味を感じなくなります。
甘柿にあるゴマはタンニンが不溶性になったあと、酸化して黒く見えるようになったものです。
ゴマがたくさんあるから甘いというわけではないのですが、渋みが舌に溶け出さないので、甘みだけを感じられます。
甘柿 完全甘柿と不完全甘柿がある

甘柿 ゴマが見えます
完全甘柿・・・熟すととにかく甘くなる品種
不完全甘柿・・・同じ木でも種の有り無し、または種の多い少ないで渋みを感じる品種
種の中から渋の成分を変化させる成分が出るので甘くなります。
甘柿と思ってむいても、渋さが残る場合がありますね。種の多少も関係する品種もあるのですね。
寒い地方では完全に渋が抜けないこともあるようです。
市場に出荷する甘柿は福島県より南でできます。
渋柿 渋抜き方法はいろいろあります

渋抜き柿
渋柿は熟してもタンニンが水溶性のため、渋が口に広がりそのままでは食べられません。
食用にするには人為的に処理して水溶性タンニンを水に溶けないタンニンにします。
渋の抜き方はいろいろとあります
①炭酸ガスを使う・・・商には二酸化炭素で渋抜きをするそうです。家庭ではドライアイスと一緒に密封する方法があります。
②アルコールを使う酒精による渋抜き・・・へたに度数の高いアルコールをつけて数日、密閉する。
③袋に入れて風呂につけておく
④米ぬかにうずめる。米びつに入れる。
米びつに入れる方法は手軽ですが、熟しすぎて身がくずれるとお米が台無しになるので注意が必要です。
昔から甘柿よりも渋柿の方がおいしいともいわれ、いろいろな渋抜き法が工夫されてきたのですね。
私もとろとろした渋抜き柿をいただくのは秋の楽しみになっています。
そして干し柿も渋柿をおいしく食べる方法の一つですね。
市場に出荷する渋柿は宮城県および山形県より南でできます。
干し柿は旅の携行食だった

大昔から干し柿の効能を見聞きしてきた人たちは、自分でも干し柿を作りたいと思っておいしい柿を食べたとき、種を持ち帰って庭に植えました。
諸国行脚のお坊さんが食べた種が落ちて各地に生えたものもあるかもしれません。
こうして日本全国に柿の木が広まっていきました。
今でも柿の品種に人の名前やお寺関係の名前が多いのはそのなごりだそうです。
元々は干し柿を作るために広まりました。ですから、甘柿の栽培が始まっても、わざわざ渋柿も大事に育ててきたのです。
柿の木は日本の風土に合っていたこともあり、津々浦々に植えられました。
柿の保存
ポリ袋に入れて冷蔵庫の野菜室で保存すれば1週間ほど持ちますが、常温だと2日ほどでやわらかくなります。柿は追熟の必要がないので、購入したら早めに食べましょう。やわらかくなりすぎた柿は冷凍するとシャーベットとして楽しめます。
柿渋(かきしぶ)
「渋うちわ 捨てられぬ身の 心安さよ」

以前、茶道の先生からこんな歌を聞きました。
ガスやIHが使えなかった時代は、炭をおこすために「うちわ」は空気を送り込む生活必需品です。
夏が終わり肌寒くなると暑いときに活躍したきれいな「うちわ」は押しやられます。
でも、渋うちわはいつでも暮らしの中にある。
お勝手で使うので少々の水がかかっても大丈夫な作りが命です。
そこで利用したのが柿渋です。
柿渋は青柿で作る
柿のタンニンはまだ実が未熟な青いうちに収穫して細かく割ります。樽に入れて水をいれ、冷暗所で数日おきます。それをペースト状にして濾過し発酵させて作ります。
渋うちわは和紙を張ったうちわに何度も柿渋を塗り重ねた物です。
最近で住宅の塗料としてもシックハウス対策などで見直されているそうです。
銘木(めいぼく)としても使われています

高田製材所Webページより
柿は高級銘木の「黒柿」の材木としても利用されています。
木の品種は豆柿です。黒くなるのは鉄分が酸化するためだそうです。
さらに枝や幹は火葬の薪(たきぎ)によいとされていたようです。
タイの大きな寺院では高僧がなくなると柿の木で棺を作ったとか・・・身近な灌木として多方面に活用されてきたことがうかがえます。
なお、柿の木は堅い樹ですが枝が突然に折れる性質があります。古来より柿の樹に登る行為は極めて危険とされています。
【まとめ】

黒船に乗って世界に広まったといわれる日本の柿は世界でも「KAKI」で通用するほど、日本の果実名で通っています。
日本で栄えた柿は今では世界へと広がって注目を集めています。
たくさんの効能と強い甘み。そして渋。私たちの祖先は柿と長い付き合いをしてきました。
冬を前にして柿を食べて体力をつけ、風邪の予防にも役立て来ました。
若者の柿離れの話を耳にしますが、柿の良さを見直したいものです。
お読みいただきありがとうございました。
〈参考〉
- 農文協:そだててあそぼうカキの絵本
- 小学館:新版食材図典
- 家の光協会:和の薬膳食材手帳
- 西東社:薬膳・漢方食材&食べ合わせ手帳
- 全国学校給食協会:食のことわざ春夏秋冬
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
☆文中の食品名および栄養価は「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」「同 追補2016年」「同 追補2017年」「同 追補2018年」に準拠しています。
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