「鰯の頭も信心から」ことわざの中に見る鰯の実力

海の鰯

 

魚偏に弱いと書いて「鰯」。

その弱い鰯が信仰の対象にもなるということわざがあります。

「鰯の頭も信心から」ということわざです。このことわざのように鰯を信心の対象にするのは鰯のある事情が関係しています。

ご存じ、節分の行事ですが、なぜ鰯の頭が登場するのか、とわざの中から鰯の実力を見ていきましょう。

鰯の頭は信心の対象として節分に登場

鰯の頭とヒイラギ節分にはヒイラギと鰯の頭を戸口に出しておく風習があります。

もともと節分は季節の変わり目のことです。新しい季節の前に悪鬼や病魔を追い払うために節分にトゲのあるヒイラギやにおいの強い鰯を飾ったり、豆をまいたりするようになりました。

焼いてにおいを強くする場合もあります.

鰯は漁獲量が変動している魚ですが、かつてはたくさん捕れて価格も安く、いたみが早い、鰯に失礼ながら「粗末」といえる魚でした。

その鰯が節分には戸口に掲げられるのですから、出世するものです。

「鬼門」という考えた方は日本独自のものだそうです。

季節の変わり目に鬼が家に入り込まないように、家に鬼が嫌がる仕掛けをしておく。つまり魔除けです。魔除けのためには恐ろしいもの、醜いものを飾る考えはいろいろなところにあります。

沖縄のシーサーや屋根の鬼瓦などもそうです。

鰯は、鬼が嫌がりそうならば「鰯でもいい」として採用となったのでしょう。鰯は価格から見ても手に入りやすい魚ですから、うってつけでしょう。

トリメチルアミンオキシドで鰯は匂う

鰯の梅干し煮

「魔除け」の願いまで託された鰯の生臭さはどこから来るのでしょう。

水揚げされた魚が、時間が経つにつれて生臭くなってくるのは、魚のうま味成分が関係しています。

魚のうま味成分の一つである※トリメチルアミンオキシドが細菌の作用によって変化することで特有の生臭さが生まれます。

鰯や鯖(さば)のように鮮度が落ちやすい魚は特にこのトリメチルアミンオキシドの変化が早いことがわかっています。

また魚の筋肉に含まれる脂質が酸化することでカルボニル化合物が生じます。この成分も魚の生臭みに関与しています。

鰯の調理には梅干しやしょうがが合います。

梅干しにはトリメチルアミンオキシドを中和する作用が、しょうがには脂質の酸化を防止する働きがあります。梅干しもしょうがも理にかなった相棒です。

もちろん、食べ頃の魚を調理することも大切です。

トリメチルアミンオキシド

→海の魚・サメ・エイ・軟体動物・甲殻類にあります。海水と体内の塩分の浸透圧を調節するためのものです。約3%ある海水の塩分濃度を約1%に低下させます。海産物の腐敗臭はトリメチルアミンオキシドが分解して生じるトリメチルアミンが主な原因です。 

魚の鮮度とうま味の関係は

鰯の開き

一般的に魚介類は肉類より鮮度の低下が早く腐りやすい性質を持っています。

魚は死ぬと筋肉中のATP(アデノシン3リン酸)が消費され、イノシン酸に変わります。

イノシン酸は※三大うま味成分の一つ鰹節のうま味で知られる成分です。

このうま味成分のイノシン酸も最終的にはヒポキサンチンという成分に分解されます。

イノシン酸が増えるとともに魚の体では死後硬直が進みます。イノシン酸の量が多いうちは魚の味もよいのですが、次第にヒポキサンチンが増えてくると魚の体についている微生物が繁殖して腐敗が進みます。

三大うま味成分

  • イノシン酸・・・鰹節のうま味成分
  • グルタミン酸・・・昆布のうま味成分
  • グアニル酸・・・干ししいたけのうま味成分 

魚の鮮度を測るものさしがあります

 

 このイノシン酸とヒポキサンチンを測って計算することで鮮度を測る指標になります。

鮮度判定指標(K値)といいます。100%は腐敗です。

活けじめ直後ですと5%以下、刺身用の魚は20%前後です。

すし種になる魚は40%くらいで、素材のうま味がもっとも感じられるころ合いだそうです。魚のおいしさは鮮度だけではないということですね。肉同様、熟成が進むということでしょう。

食品産業の世界では鮮度測定器や簡易試験紙などが使われています。

新鮮でなおかつおいしい魚はこうした業界の努力のたまものです。

鰯の漁量は変動します

海の鰯

鰯は食用の他にも、養殖魚や家畜のえさや「田作り」として田んぼの肥料に使われてきました。それはたくさん獲れて安かったからです。

マイワシは数十年周期で漁獲量が大きく変動する魚といわれています。冬期に北半球で発生するアリューシャン低気圧の強弱と関係しているそうです。この低気圧が発達するとマイワシが増え、低気圧が弱いとマイワシが減るそうです。 

鰯の種類と加工

日本で流通している鰯は主に以下の三種類です。

 マイワシ

鰯の刺身

体調は約20cm。日本全国に分布しています。体側に7つ以上の黒い点があることから「ナナツボシ」と呼ばれることも。この黒い点がハッキリしているものほど新鮮です。

鮮魚として流通するのはこのマイワシです。刺身や塩焼き、骨ごとツミレにして食べます。

手間がかかるので滅多に見ませんが「マイワシの開き」は安い材料に手間をかける心意気がぜいたくな食べものだと思います。とてもおいしい干物です。

ウルメイワシ

丸干し鰯

体調は約25cm。目が大きく潤んだように見えるところから「ウルメイワシ」になりました。体は細長い円筒形。鰯の中では油が少ないので丸干しなどの干物にされます。

カタクチイワシ

煮干し

煮干し

体調は約15cm。下あごが短い独特の顔つきが特徴です。体は細長い円筒形で背が黒いので別名「セグロイワシ」と呼ばれます。多くは加工されて流通しています。

塩漬けにして竹串などでつなげる「目刺し」や味噌汁のだしに欠かせない「煮干し」「いりこ」、正月の「田作り」にする素干しもカタクチイワシです。

イタリア流離に登場する「アンチョビ」はカタクチイワシな仲間を塩漬けにして発酵させオリーブオイル漬けにしたものです。缶詰のオイルサーデンもカタクチイワシの仲間で作ります。 

鰯の栄養は体の邪気もはねのけます

鰯はDHA・IPAの含有量が多いヘルシーな魚です。

DHA(ドコサヘキサエン酸)を十分にとることで、脳の神経細胞が活性化され老化抑制や認知症予防になるといわれます。さらに記憶力や学習能力の向上、視力の回復、抗炎症作用などもあります。

IPA(イコサペンタエン酸)は血液粘度を下げていわゆる血液サラサラにし、善玉コレステロールを増やすので生活習慣病予防に効果的です。

「鯖の生き腐れ」ってどういうこと?

鰯はカルシウム・リンなどの成長に必要な栄養がそろうとされています。

しらす

しらす

鰯のカルシウムに関しては豊富なだけでなく、カルシウムの吸収を20倍も促すというビタミンDも多いので骨粗しょう症予防にも適しています。

イライラの解消にも役立ちます。つみれや煮物など骨ごと食べる料理にするとさらに効果が高まります。

ビタミンB2も豊富で、皮膚や粘膜を守ります。口内炎や風邪の引き始めに有効です。

鰯の注意点

青魚の中でも特にいたみが早い鰯です。冷蔵保管して、買ったその日に食べるようにしましょう。冷凍保存もできます。

鮮度が落ちたものはアレルギーを起こすこともあり注意が必要です。

【まとめ】「鰯の頭も信心から」鰯の実力は鬼も病気も払いのける魔除けの力が!

ヒイラギと鰯

鬼が嫌がる鰯のにおいは、トリメチルアミンオキシドやうま味成分のイノシン酸が細菌の作用によって鮮度が落ちていく過程で特有の魚のにおいが発生していくものでした。

鰯のにおいは鬼も避けると信じられていましたが、体の邪気=病気も遠ざける力を持った価格も安い、すばらしい食材です。

ですが、鮮度が落ちやすいので買ったら早く食べる、あるいは冷凍保存して体によい脂が変質しないように注意しましょう。

お読みいただきありがとうございました。

〈参考〉

  • 全国学校給食協会:食のことわざ春夏秋冬
  • 群羊社:たべもの・食育図鑑
  • 高橋書店:あたらしい栄養学
  • 西東社:薬膳・漢方食材&食べ合わせ手帳
  • 家の光協会:和の薬膳食材手帳

☆管理栄養士 すずまり が書きました。

↓ブログランキングに参加しています。よろしかったら応援お願いします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

管理栄養士のすずまりです。 食べものの文化的な側面など「おとなの食育」の観点から書いています。