河豚は食いたし命は惜しし

ふぐ提灯

「河の豚」と書いて「河豚(ふぐ)」

ふぐはなかなか庶民には手が届かない冬の味覚です。

今はふぐ調理師の制度がありますから安心してふぐを食べることができますが、ふぐの毒は古くから知られていました。

河豚は食いたし命は惜しし」にみる食通の心の揺れと開き直りをみていきましょう。

河豚は食いたし命は惜しし

トラフグ

トラフグ

この言葉はズバリ、おいしいふぐは食べたいけれど、毒にあたって死ぬのはもちろん「イヤ」といった食通の心の揺れを示した言葉です。

ふぐの毒が抽出され「テトロドトキシン」と名付けられたのは明治時代も終わりに近い明治42年のことです。

今のように情報が駆け巡る時代でもなく、どこに毒があるのか、板前さんは経験から調理をしていたのでしょう。

そのため、ふぐで命を落とすこともままありました。

「危険と隣り合わせの料理を自ら求めて食べる食通の心意気は大和魂につながるのではないか」とはミシガン大学のサイデンステッカー教授の言葉です。

サイデンステッカー教授は源氏物語の翻訳もした文芸評論家です。

ふぐで大和魂を持ち出すとは大げさな気もしますが、ともかく日本人は危険を覚悟でおいしいものを追求してきたと言えるでしょう。

河豚にもあたれば鯛にもあたる

鯛

鯛の言い分「食中毒菌がつくのはオレのせいじゃねえ! 一緒にしないでくれ!!」

ふぐには毒があり、ときには命を落とす危険な食べものです。

が、しかし、食べて具合が悪くなるのはふぐだけじゃない。

おいしい魚の代表格、鯛(たい)だって、いたんでいれば食中毒をおこします。冷蔵の手段がなかった時代には夏場は魚もいたみやすかったでしょう。

夏場の魚の中毒といえば腸炎ビブリオ。急性胃腸炎の原因となります。

塩分があるところで増える菌です。海水くらいの濃度の塩水が大好きで、気温が上がるとともに海水中で増えます。真水や熱に弱いのが特徴です。

河豚にもあたれば鯛にもあたる」は「毒だ毒だって、何もふぐだけじゃないわい!他の魚だって危ないじゃないか。ほっとけ!!」といったところでしょうか。

河豚汁を食わぬたわけに 食うたわけ

ふぐ鍋

これもふぐの味がよいところからできたことわざです。

「いくらおいしいからって、命がけで食べることもないだろうに、馬鹿だねぇ」とくれば

「毒がこわいこわいったって、こんなにおいしいんだから、ビクビクしないで食べりゃいいのに。粋じゃないねぇ」

と両方の声が聞こえてきそうです。

「踊る阿呆(あほう)に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃそんそん!!」という囃子詞(はやしことば)がありますが

さて、ふぐはどちらが得になるのやら、究極の選択でしょうか。

他にも

河豚食う無分別、河豚食わぬ無分別」といういい方もあります。

すずまり

ふぐ調理師の制度がある時代でよかったですね。今度の冬にはふぐを食べたいなぁ

ふぐの毒 テトロドトキシンはどんなもの?

研究者

ふぐに毒があることはかなり古くから知られていたようです。

ふぐの毒は食中毒から来る胃腸炎とは明らかにちがい、呼吸や感覚の麻痺を起こす神経毒です。

海洋の微生物に由来するといわれ、ふぐの体内に蓄積するとされます。

鎮静薬として神経痛の薬にも用いることがあるようです。

その毒は、テトロドトキシン

文献により差はありますがその威力は青酸カリの500倍から1000倍とか・・・
猛毒ですね。

熱に強く、通常の加熱調理では壊れません。2㌘から3㌘あれば人ひとり殺せるとか。
テトロドトキシンは、ふぐだけでなく、ハゼや一部のタコ、ヒトデなどの海洋生物のほか、イモリやカエルなどの両生類からも見つかっています。ふぐになぜ毒があるのかはまだよくわかっていないということです。

毒にあたった場合の症状の出方は非常に早く、食べてから死亡するまで通常は4~6時間とのこと。早い事例では1時間半ということもあるようです。

飲食店で食べたり、切ったものを買う場合は免許を持っている人がさばいていますが、ふぐは釣りでも釣れる魚です。

今でも毎年、数人の方がふぐで命を落としているそうです。

東京都福祉保健局のHPからの情報です。

  1. ふぐは種類によって毒の力がちがう
  2. 臓器の種類によっても毒力がちがう
  3. 毒の力は個体差が大きい
  4. 毒があるとされる臓器は年間を通して毒がある
  5. 漁獲された場所によって毒力がちがう場合がある

東京都福祉保健局のWebページもご覧ください

つまり、隣に並んでいるふぐでも、毒が強かったり弱かったり、「あたるも八卦(はっけ)、あたらぬも八卦」とはちょっとちがいますが、運良く、今まで大丈夫だったけれど、今回はダメだったということもあります。
自分で釣ったふぐを自分でさばいて食べるのはかなり危険な行為となります。

なお、食べてから症状が現れるまでの時間が短い場合ほど致死率が高いといわれています。

毒にあたったときの症状

第1段階

  • 食後20分から3時間までに、口唇(こうしん)・舌先・指先がしびれ始める
  • 激しい嘔吐(おうと)が続くことがある
  • 歩行は千鳥足

第2段階

  • まもなく知覚マヒ、言語障害、呼吸困難に
  • 血圧が降下する

第3段階

  • 全身が完全な運動マヒ状態に

第四段階

  • 意識消失の後、呼吸、心臓が停止し、死にいたる

ふぐの毒、あなどれない恐いものですね

ふぐの4本の牙から毒名がつけられた

ふぐ毒は明治42年(1909年)に東京大学で抽出に成功しました。
テトロドトキシンと名付けられたふぐ毒ですが、テトロはギリシャ語で「4」を表す「テトラ」から来ています。

ふぐには4本の鋭い牙(きば)があることにちなんでいます。そこに毒を意味するトキシンがつけられて「テトロドトキシン」

ふぐはおいしいのに、なんてやっかいな食べものなのでしょう。おいしいからこその自然の摂理(せつり)なのでしょうか。

「てっちり」ってどんな料理?どんな意味?

てっちり

ふぐのちり鍋を特別に「てっちり」と呼びます。漢字で書くと「鉄ちり」です。

この「鉄」、ただの「鉄」じゃありません。

なんと鉄砲(てっぽう)からきています。その心は・・・「当たったら死ぬ」からですって。

本当に危ない食べものだったのですね。

ふぐ食禁止令の中、総理大臣も

まだふぐの毒の正体も、毒に個体差があることもわからない時代には、ふぐを食べることを禁止する「ふぐ食禁止令」もたびたび出されていました。
そのような中、明治27年にふぐの産地である下関の春帆楼(しゅんぱんろう)というところで、ときの総理大臣の伊藤博文に禁制だったふぐを勧めました。
その美味なことと言ったら・・・
おいしさに感心した伊藤博文総理大臣は、山口県の下関(しものせき)・福岡県の門司(もんじ)にふぐ料理が解禁されたということです。
おいしいのは当然として、ときの総理大臣にふぐを出すことにはかなり勇気が必要だったのではないでしょうか。

「ふぐ」か「ふく」か

下関唐戸市場のふぐ

ふぐが名産の下関を始め西日本ではふぐを「ふく」と呼びます。

ふぐが「不遇(ふぐう)」に通じるところから来ています。

「ふく」と濁らずに呼んで「福」を招きます。いい発想だなあと思います。

ちなみにふぐは漢字で「河豚」「鰒」「鮐」と書き表します。

河豚の文字は中国語そのままだそうです。海にいるのに河の字を使うのはふぐが長江(ちょうこう)を遡って、かなり上流でも獲れたからだそう。

釣り上げられると威嚇(いかく)のために丸くなるところから丸々とした豚の字を当てたのでしょうか。

精一杯威嚇(いかく)しているふぐには申し訳ないけれど、丸くなったふぐってかわいいですよね。

ちなみに「河 豚」はふぐですが、「海 豚」となるとイルカになります。

【まとめ】ふぐのことわざあれこれ

ふぐの鶴作り

ふぐについてのことわざのいくつかを見てまいりました。

ふぐはおいしい冬の味覚です。でも、猛毒を身に隠し持っています。しかもその毒の量や強さは個体差が大きいそうです。

免許を持っている「ふぐ調理師」の方が調理したものなら大丈夫。厳しい実技試験をパスされた方々ですから安心していただけます。

刺身・てっちり・から揚げ・ひれ酒と楽しみたいものですね。

とはいえ、ふぐは高価な魚です。機会を得たらば、心していただきたいものです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

〈参考〉

食のことわざ春夏秋冬:全国学校給食協会

☆管理栄養士 すずまり が書きました。

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管理栄養士のすずまりです。 食べものの文化的な側面など「おとなの食育」の観点から書いています。