ホキとは聞き慣れない名前ですが、深海魚です。
ホキとして購入することはほとんど無いのでなじみがうすいのですが、たぶんどなたも白身魚のフライなどで食べていると思います。
ホキはフライなどの揚げ物に向く魚とされています。
ホキのフライがおいしいのは訳があります。それは深海魚だからです。
ホキについてのあれこれと深海魚や日本の魚事情について見ていきましょう。
目次
ホキは淡泊な味わいでフライに向きます

ホキは外国から輸入されるタラ、そう、「タラ」としての位置付けとなっています。
日本近海で獲れるマダラやスケトウダラに対して北大西洋やアフリカ、ニュージーランド方面で獲れるタラ類です。
その中でもシロイトダラ、ホキは肉質が上等とされています。
ホキはクセがなくあっさりとした淡泊な味わいの白身の魚です。
みずみずしく水分が多いので加熱しても身が縮むことが少なくて柔らかです。その点も都合がいいですね。
その分、うま味と脂肪が少ないので、フライにするとコクが出ておいしいのです。
ホキの切り身に塩こしょうをなじませたものをフライにすると、ソースをかけなくても、とてもおいしくいただけます。
フライだけでなくバターを使ったりスパイスなどで補うと味わいが広がります。
ホキは実はよく食べている?

深海魚を食べるというと特別のことのように聞こえますが、実はとても身近な存在で、日常的に食べているといってもよいほどです。
水深200~300㍍で獲れる魚はまぎれもない深海魚です。
よく見かける金目鯛もマダラも水深300㍍くらいで生活しています。
実はホキもフィッシュフライの材料として、日本だけでなく世界中で食べられています。知らず知らずに食べている深海魚の典型です。
メヌケやギンダラといった高級魚も実は深海で生活しています。
甲殻類もいます。ズワイガニやアカザエビなども水産資源として重要ですね。
ホタルイカやサクラエビも産卵期以外は深いところにいるようです。
このように見ていくと深海魚はとても身近で実はよく食べている食材と言えますね。
ホキはタラ目で立派にタラのくくりの中にあります。
ホキという呼び方はニュージーランドやオーストラリアでの呼び方です。
ホキがみずみずしいのは浮力の調整のため
ホキは脂肪分が少ないのが味の特徴です。
深海魚には
- ホキのようにみずみずしく脂肪分が少ないもの(言い換えれば、水っぽいと言えます)
- 脂肪分が多いもの
と大別することができます。
これは厳しい圧力がかかる深海で水分や脂分を蓄えて浮力を得るためといわれています。
一般的には魚は鰾(うきぶくろ)を持っていて、鰾に空気をためて浮力を得ています。
ですが、深海では圧力がかかって、ガス交換がしにくく、鰾が機能しにくい環境です。そこで、空気ではなくて海水と比重が同じ、あるいは比重が小さい水や脂質を筋肉中にためる方法を得てきたようです。
ですからホキがフライに向くのは深海魚だからと言えますね。
深海魚の中にも普通の鰾を持っていたり、肝油を大量に含む肝臓を持っていて、浮力を調整できるしくみを持っている魚もあります。
アンコウが体重の1/3もの肝(きも)を持っているのも浮力を得るためなのでしょう。
なお、鰾を持つ深海魚を釣り上げたときは時間をかけて水面に引き上げることが必要です。急いで引き上げると鰾の中の空気が水圧の変化で膨張(ぼうちょう)してしまいます。
ホキの栄養
一例としてホキとブリ、シロサケの栄養価を比べてみます。
ホキ | ブリ | シロサケ | |
エネルギー kcal | 84 | 257 | 133 |
水分 g | 80.4 | 59.6 | 72.3 |
たんぱく質 g | 17.0 | 21.4 | 22.3 |
脂質 g | 1.3 | 17.6 | 4.1 |
ホキは水分が多くて低カロリーです。うま味のもとになるたんぱく質も少ないですね。脂肪もほとんどありません。
深海で暮らすために浮力の調節に便利な構成になったのでしょう。
- フライにするとおいしい!
- バター焼きにするとおいしい!
- スパイスを使うとおいしい!
ホキはみずみずしい・・・実のところは水っぽいと言える深海魚の特質を上手く使った利用をしていると言えるのではないでしょうか。
ホキにはDHA、EPAは少ないが酸化もしにくい
さて、背青魚に多いとされるDHA(ドコサヘキサエン酸)、※EPA(エイコサペンタエンサン)といった不飽和脂肪酸はホキなどの白身魚には含まれているのでしょうか?
上の表にもありますが、もともと生のホキ100g中に脂肪分は1.3gしかありません。
残念ですが、ホキにはDHAやEPAは期待できません。
DHAやEPAは新鮮なサンマやアジ、イワシ、サバなどで摂りましょう。
※EPA(エイコサペンタエンサン)はIPA(イコサペンタエン酸)とも呼ばれています。
これらDHA、EPAは魚に特徴的なので「魚油(ぎょゆ)」と呼ばれています。分子の構造の中に二重結合があり、不安定な物質です。この不安定さが良くも悪くも作用します。
不安定な物質は安定したいので体内で色々な物質と結合します。血中の余分なコレステロールなどと結合して肝臓へ運んできます。この結果、生活習慣病の予防や治療に有効であるといわれるのですが、酸素があると酸化されやすく人体に有害な過酸化脂質も作ってしまうため、大切だけれど過剰摂取も良くありません。
ホキには脂肪分が少ないので、酸化もしにくいと言えます。冷凍保存してもいわゆる油焼けをおこしにくい魚です。

ホキ 市場魚貝類図鑑より
ニュージーランドと南オーストラリアに分布しています。
体の背面は青黒色、腹部は青みがかった銀白色です。
水深200~800㍍の大陸棚と大陸棚の斜面に群れを作って生活しています。群れを作るので捕獲しやすい大型魚といわれ、底引き網で捕獲されます。
産卵は1月~9月で大陸棚の斜面でおこなわれます。
寿命は12年~15年といわれ、全長1.3㍍、体重7kgにも達します。
ニュージーランド海域ではもっとも資源量が多い魚です。
1970年頃から日本の漁船によって切り身用に漁獲されましたが、現在ではすり身としての価値の方が高まっています。
ホキの故郷は南半球

外食産業やハンバーガー屋さんで「白身魚のフライ」として親しまれている深海魚がいます。
今まで一般には「白身魚」と大ざっぱな名称でしか呼ばれることがなかった白身魚たちですが、ある業界では確固たる地位を築いているものがあります。
それは冷凍食品業界と学校給食です。
学校給食では保護者に配布する献立表には原材料を明記します。
何十年も前ならいざ知らず、材料の欄に「白身魚」だの「くだもの」などとあいまいなことを書ける時代ではありません。献立表の「からだを作るもの」あるいは「たんぱく質」の欄に「ホキ」とか「メルルーサ」だとか「タラ」とかと記入されます。
ホキの需要が広がったきっかけは
市場魚貝図鑑より-300x180.jpg)
ニュージーランドへイク(メルルーサ)市場魚貝図鑑より
学校給食ではメルルーサを毎月のようによく使います。主に揚げ物です。揚げ物は粉をつけて油であげますが、焼き物ですと鉄板に焼き付いたものをこそげ取ろうとすると身が崩れるからです。メルルーサもホキ同様水っぽいので、崩れやすいのですね。
でも、メルルーサはいつでも買える魚だと思っていました。
あるとき、取引している魚屋さんから
「メルルーサがだんだん品薄になって、高くなってきている」
と聞かされ、おどろいた記憶があります。
200海里の問題で自由に操業できなくなったことと、今まで魚を食べなかった国がヘルシーな魚に目をつけるようになって、高くても買うようになったからと聞きました。
その頃はまだ、ホキという魚を知りませんでした。

ホキは学校給食や職員食堂で大活躍

学校給食ではホキは「白身魚」ではなく、ホキとして固有名詞で使用しています。
学校給食、そして日替わり定食を作る職員食堂などではホキが大活躍です。
予算が限られていますし、切り身の大きさ、厚みが均一にでき、数もそろえられるホキは安心して献立に乗せられます。
切り身の大きさ、厚みが均一にできるのは、大量調理ではありがたい特徴です。揚げたり焼いたりの時間を一度決めれば、最後まで「中は生だった」「加熱しすぎた」ということがありません。
学校給食では切り身のホキを買って揚げたり焼いたりして、手作りしていますが、程よく塩こしょうをしてパン粉をつけ、「あとは揚げるだけ」の冷凍食品もたくさん流通しています。
「魚のフライ」と呼ばれる商品の60~70%はホキが原料になっています。
ホキはニュージーランド政府の厳しい資源管理政策のせいもあり、「今後も安定した漁獲が見込める魚」として期待されています。
ちなみにメルルーサは漁獲量が少ないのでホキの1/10位の流通量になっています。
また、マダラやスケトウダラは乱獲などで世界的に漁獲量が激減しているため、製品としての安定供給に難があるとされています。
マダラは乱獲で「資源として使いつぶしてしまった」とさえいわれます。
ホキは味の上でもマダラに近く、
- 価格
- 供給
- 品質
と、三拍子そろった加工しやすい魚です。ホキの人気は今後も続いていくでしょう。
ホキで作るフライは高品質

日本で流通している白身魚のフライは水揚げ量、価格面からホキとスケトウダラにしぼられています。
特に日本で好まれている形状は皮つきの切り身にソフトパン粉をつけた商品が主流です。
半解凍の状態で骨や内臓をとった皮つきの身を斜めに切って笹形に整えます。このとき、規定の重量になるように注意します。
切り身は衣付けとの関係から表面積も同じになるよう、さらに見た目も同じようにするため、熟練者の手作業となります。
原料になる魚は一度漁船の中で冷凍され、半解凍で打ち粉をつけパン粉をまぶして再凍結したものが商品になります。
パン粉をつけたらなるべく早く再凍結させないと、水分が出てきてしまいますのでもたもたできませんね。
ホキは水揚げ後の傷みが比較的ゆっくりとしています。水揚げ後すぐに氷で冷やし3日以内にフライに製品化できれば、ワンフローズンと呼ばれる一回の冷凍ですみ、非常に高品質な商品になります。商品へのこだわりが強い企業ではすでに取り入れられている方法とのことです。
これらの点から、ホキのフライは高品質といわれています。
ホキは寄生虫の心配がありません
ホキには他の魚と比べても寄生虫の心配が低くなっています。
スケトウダラやタラでは産地や時期によりアニサキスなどの感染の心配があります。
“SURIMI”の技術は日本生まれ

熱海グルメ蒲鉾Webページより
おでんの練り物や伊達巻きに欠かせない魚のすり身は1960年代に日本で開発されました。
今では日本のみならず北米、ロシア、南米、東南アジアで作られています。
材料はホキ、スケトウダラをはじめとしてホッケ、マダラ、メルルーサなどの白身の魚が多く使われています。
また、イワシなどもつみれの材料として用いられています。
冷凍すり身は使う魚の色や味、風味によって特徴づけられます。
冷凍すり身も水揚げ後の魚の温度管理が大切で商品としての価値にも影響します。
1965年には船上ですぐにすり身にできる設備を整えた船ができています。
日本の指導で冷凍すり身の高い技術はアメリカ・ソ連へと広がりました。しかし1977年のアメリカ、ソ連、カナダによる200海里の漁業水域が設定されたため、日本は冷凍すり身の輸入国になってしまいました。
ホキの選び方
スーパーでは、カットしたホキが売られていることもあります。
新鮮なホキの選び方は以下です。
- 皮が銀白色で輝きがある
- 色がきれい
- 身にハリがあるもの
- トレーの中で水分(ドリップ)が出ていないもの
【まとめ】
ホキの特徴と商品としての側面を見てきました。
ホキは水分の多い深海魚であり、栄養価の面では、特に優れているとはいえませんが、とても使いやすい魚です。
栄養価が低いので水揚げ後の傷みが遅い利点があります。
また、寄生虫の心配も少ない魚です。
あっさりしているので揚げ物やバター焼きがおすすめです。香辛料を使った料理も合いますね。
学校給食や社員食堂、外食産業で重宝される魚です。
乱獲で少なくなってしまわないよう、大事に食べつないで行きたい魚です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
〈参考〉
- 別冊歴史読本 雑学シリーズ おもしろサカナの雑学事典:新人物往来社
- にっぽん魚事情:時事通信社
- 深海魚のレシピ:地人書館
- 魚の事典:東京堂出版
- 水産大百科事典:朝倉書店
- 冷凍食品の事典:朝倉書店
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
その後、ホキを使い始めたけれど、切り身の大きさが均等で扱いやすいし、骨もなく、おいしく食べられました。