江戸っ子がありがたがった初鰹のシーズンがやってきます。
初鰹を楽しみながら、味覚や栄養、季節感などカツオのあれこれについて見ていきましょう。
目次
初鰹を楽しんだ江戸っ子
古事記や日本書紀、万葉集にも登場するカツオ
「目には青葉 山 郭公(ほととぎす)初鰹」と詠んだ「山口素堂(そどう)」は江戸時代前期の俳人です。
「青葉」も「ほととぎす」も「初鰹」も夏の季語で、ひとつ入ればOKの俳句の世界で季語が三つとは。もう、初夏!! 気分ですね。
- 初夏と言えば目にするのは「青葉」でしょう!
- 耳にするのは「ほととぎす」でしょう!
- 口にする味覚は「初鰹」でしょう!!
と来れば、もう江戸っ子はソワソワするしかない。
現代では「初鰹は脂肪分が少ないので秋の方がおいしい」という声を聴きますが、「初物をいただかなくては意味がない!」とばかりに「女房を質に入れても」と乱暴なことばも飛び出しました。
あまりのフィーバーぶりに幕府が統制したほどだそうです。
この「初鰹」は「春獲り」と呼ばれ、秋に獲ったものを「秋獲り」通称「戻り鰹」と呼ばれます。
この時代、脂肪がのった秋の鰹は品のない食べもののように扱われていたそうです。
脂がのった戻り鰹については以下の記事もご覧ください。
質素な暮らし向きでは手が出ないほど高価だったという初鰹。
果たして江戸っ子はゆっくりと初物の初鰹を楽しむゆとりがあったのかどうか・・・
「聞いたかと問えば 食ったかと答える」 柳多留(やなぎだる)
柳多留は江戸時代の川柳誌。「聞いたか」とはホトトギスのことで下句は庶民の願望である鰹のことです。
カツオの栄養
鰹のお刺身は赤い色からもわかるとおり、たんぱく質はもちろん、鉄分も豊富です。この赤い色はミオグロビン鉄を含んだ色素です。
また、他の魚と比べると血合い部分が多く肉の25%を占めています。この血合い部分にはビタミンA、B1、B2、B12や鉄分のほかEPA,DHAを多く含みます。
疲労回復・貧血の予防や発育の助けをしてくれます。
暖かい南方の海の鰹は脂肪が少なく、秋に三陸沖で漁獲された鰹は脂肪がのっておいしくなり「トロガツオ」として珍重されています。
カツオはサバ科

カツオは分類上「サバ科カツオ属」に含まれます。
鰹はマグロと同様、典型的な紡錘形の体型で、浮き袋もありません。
この体型と身体の構造で海洋を高速で泳ぎ回っています。
寝るときはさすがに速度を落とすそうですが昼も夜も一生泳ぎ続けます。
大きな身体を維持するために餌を求めて広範囲に速く泳ぐにはたくさんの酸素を必要とします。
そのため、海水に溶け込んだ酸素を大量に取り入れるために口を開けて高速で泳ぎ回るそうです。
カツオの身が赤いのは高速で泳ぐためのミオグロビンを含んだ筋肉が多いためです。
なぜ寝ていてもぶつからずに泳げるのか

夜の海は暗いですし、岩もあります。他の魚もいます。どうやってぶつからずに泳いでいるのか不思議ですね。
えらの後ろから尾びれにかけて線によってつながっているように見える部分があり「側線」と呼んでいます。ここは魚の感覚器官になっていて、水流や水圧を感じます。
この部分で真夜中でも魚同士がぶつからずに泳ぐのに役立っているということです。
世界中の暖かい海に広く生息していますが大洋の中央部にはいないそうです。
日本海には黒潮に乗って回遊します。
夏には北海道沖にも行きますが北海道の日本海側までは北上しないそうです。
鰹は堅い?!
鰹は「魚偏に堅い」と書きますが身が締まっていて堅いところから当てられた字です。
「畑」とか「笹」などと同様の「国字」です。
魚偏の漢字はほとんどが国字のようです。
お寿司屋さんで魚の名前が漢字一文字で書かれている大きな湯飲みを見ていると、「なるほど」とか「そうなのか」と思うことがありますね。
ユーモアも感じられて、昔の人のセンスに脱帽です。
鰹節はギネス認定されています

昔はどの家庭にもありました
鰹の全漁獲量の半分近くが鰹節に加工されるそうです。
鰹のうま味成分は「イノシン酸」で脂肪の少ないものが鰹節になります。
水分も栄養分も多い傷みやすい鰹を保存する方法として江戸時代に発達しましたが、手間もひまもかかる大変な行程を経ています。なによりカビをつけることをよく発明したなと感心します。
カビの種類は「アスペルギルス属」のものだそうです。
このカビの働きで
- 水分含量が低くできる
- うまみが増す
- 保存性が増す
- 皮下の脂肪が減少する
- 独特の上品な香りが付く
- だし汁をとるとき、透明になる
などの数々の効果がでます。
日本料理は鰹節の存在がベースになっていると言っても過言ではないでしょう。
この鰹節、世界一堅い食べものとしてギネスブックに認定されています。
すごい。
かつお節はおめでたい食品

結納の品
そして鰹節はおめでたい食品でもあります。
結納の品や結婚式の引き出物に鰹節がありますね。
何でも「雄節」と「雌節」を一対にして夫婦にちなんだ縁起ものにしているそうです。
また、「勝男」にも通じることから祝い事や贈答品として使われています。
もっとも、昨今は結婚式の引き出物としては「削り節」にして1回分ずつ袋に入ったもの、顆粒状の「だしのもと」が贈られることが主流です。
そうかと思えば、戦時中にいざというときの携行食に入れていたという記事を読んだことがありました。
かつお節に対する信頼感や郷愁も感じられます。
初鰹を楽しむのは刺身やたたきで

従来は鰹節に加工されることが多かったのですが、近年は刺身やたたきとして生食されることが多くなっています。
低温での流通が徹底されていることで生食が普通に楽しめるようになりましたね。
マグロと異なり鰹は血合いも一緒に食べます。
血合いは栄養分に富んでいるので、「いたみ」が早く臭みも気になります。そこで表面をさっとあぶって「いたみ」を遅らせる食べ方が広まりました。
わらを燃やしてあぶるのが最高だそうです。さすがに昨今はわらが手に入りにくくバーナーで焼くところが多いですが、今でもわらを使うことを「売り」にしているお店があります。
また、血合いの臭みを和らげるためにショウガやニンニク、青じそなどを薬味として添えます。これが盛り付けの彩りともなります。

鰹の漁法

生きた「カタクチイワシ」を撒き餌にして擬餌針で釣る「一本釣り」で釣るのが昔からの漁法です。
テレビで見ることがありますが、とても豪快ですね。
魚群に近づくと散水と一緒に生き餌を撒きながら釣ります。
漁師さんは船縁に一列に並んで一気につり上げるそうです。
【まとめ】鰹は値段も手頃でたんぱく質・ビタミン・ミネラルが豊富です
私たち日本人がはるか昔から食べ親しんできた鰹について見てきました。
初鰹のシーズンが楽しみですね。
最後までお読みくださりありがとうございました。
〈参考〉
- 小学館 新版食材図版
- ぎょうせい 食育歳時記
- 全国学校給食協会 食のことわざ春夏秋冬
- 群羊社 たべもの・食育図鑑
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
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私も学生時代には初鰹のシーズンに鰹一尾を買って無駄なく使う勉強をしました。
刺身やたたきの他に切れ端や血合いでショウガを使って時雨れ煮を作ったりしたものですが、今はなかなかその気合いはわかないですね(汗)
たたきを薄く切って中華ドレッシングにつけ込み、サラダの上にのせていただくものが好きな食べ方の一つです。