羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)は中国の古いことわざですが、ずいぶん難しい漢字が並びますね。
羹(あつもの)は羊羹(ようかん)の羹(かん)と同じ字のようですが、懲りるような食べものなのでしょうか?
そういえば羊羹はなぜ「羊」の字を使うのだろう?
わかっているようでよくわからない羹に懲りて膾を吹くの「あつもの」についてみてみましょう。
羹に懲りて膾を吹くの「あつもの」は具だくさんの煮込みスープ
羹(あつもの)は肉や野菜を煮込んだ熱いスープのことです。
熱いものは熱いうちにおすすめするのが「ごちそう」です。
中国では羊はごちそう肉です。
羊の肉は融点が高く、冷めると口当たりが悪くなり、熱いうちに食べる料理に適しているところから「羹(あつもの)」もさぞかし熱々をおすすめしていたのでしょう。。
でも、うっかりこれで口の中をやけどしてしまったら、次に熱いものを食べるときにはかなり慎重になり用心します。
一口ごとに「フーフー」することでしょう。
膾(なます)は酢の物

膾(なます)は酢の物です。
これはどう見ても冷たい料理ですが、ついうっかり「フーフー」してしまった。
前の失敗に懲(こ)りて必要以上に余計な用心をすることを「羮に懲りて膾を吹く」というわけで、過度に心配する人、またはその行為をあざけるときに使うことわざです。
膾(なます)が「和えもの」や「浸しもの」に変っていることもあるようです。が、もともとの出典である中国の古い書物の『楚辞(そじ)』にあるのが膾(なます)だそうです。
屈原と言えば優れた政治家であり、また詩人で、悲劇の英雄とも言われています。
膾(なます)を「フーフー」と大真面目に吹きながら食べたら、そりゃ滑稽なことでしょう。「いや、ほこりが入りそうだったから・・・」とか言って、その場をごまかすなどして切り抜けたいところですね。
蛇に噛まれて朽縄に怖じる(へびにかまれてくちなわにおじる)も同じ意味

こちらも、恐ろしい体験の後、心理的に警戒心が強くなって、人様には滑稽(こっけい)に見える行動をとってしまう様子を言った言葉です。
羹(あつもの)の中にある羊

羊(ひつじ)は草食動物特有のやさしい顔をしていますね。
「羊」の字は羊を正面から見た象形文字(しょうけいもじ)だそうです。そういえば、漢字の中に耳がありますね。
そして「羹」をよく見ると、「美しい」の「美」があります。
この「美」は「羊」に「大」がついたもの。
羊が大きく丸々としているものは肉もたっぷりとおいしいので価値が高く、良いものとして「美しい-うつくしい」という意味の字になりました。
羊がつく漢字は
「羹」や「美」の他にもある「羊」がつく漢字をみてみましょう。
栄養の「養」
栄養の「養」は「羊」に「食」で羊を食べてからだを養(やしな)うことを表します。
羊は食品として、とても価値のあるものと考えられていたということですね。
羨(うらや)ましいの「羨」
羨ましいの「羨」には羊の下に「よだれを垂らす」意味のセンの字が当てられています。おいしいものをうらやむことを表しています。
羊はおいしいもののシンボルとして扱われています。
他にも
- 群れ
- 義
などがあります。
羊は世界的に重要な肉資源

羊はウシ科の哺乳動物です。家畜とされたのは牛よりも古く8000年以上前から食用や毛皮、羊毛を利用してきました。
日本では羊の肉の消費は多くありませんが、世界的に見ると重要な肉資源となっています。
性格がおとなしく、群れをなして移動する習性があるので、遊牧民はこの性質を利用して生活してきました。
人類は羊に寄生して生きてきたと言ってもよいほど、牧草だけで生きていける羊から恩恵を受けてきました。
人間にとって羊は貴重な動物です。
それが羊を使った漢字の成り立ちにつながっています。
羊羹は元はスープのことだった

話をもどして「羹」には羊に点が四つ付いています。
これは子羊です。「こひつじ」で変換するとちゃんと「羔」と出ることを知りました。
子羊はさらにやわらかくておいしいですが、「羊羹-ようかん」はもとは羊のスープのことでした。
ところで中国には羊の肝(きも)に似せて作った「羊肝糕(カンカンゴウ)」と呼ぶお菓子があります。
このお菓子の音(おん)が羊羹(ようかん)に似ているところから、日本では「ようかん」と呼ぶようになったとされています。
これで動物の「羊」とお菓子の「ようかん」がつながりました。
【まとめ】羹に懲りて膾を吹くの「あつもの」は具だくさんの煮込みスープ

羹(あつもの)は具だくさんの熱々の煮込みスープです。羊の肉を使ったものは、さぞおいしかったのではないでしょうか。
それも、ただの羊ではなくて「羔」こひつじを使ったスープが「羹(あつもの)」です。
中国では羊の肉は上等でおいしいものとされてきたからこその漢字の成り立ちですね。
羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)は熱々のスープで口の中をやけどしたので、用心して冷たい料理の膾(なます)をフーフーと吹いて冷ましてしまう様子をあざけった言葉でした。
そして和菓子の羊羹(ようかん)は中国の「羊肝糕(カンカンゴウ)」と呼ぶ、羊の肝(きも)に似せて作ったお菓子の呼び名からついた名前です。
小豆(あずき)を使ったお菓子になぜ羊がつくのか不思議でしたが、直接は関係なかったのですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
〈参考〉
全国学校給食協会:食のことわざ春夏秋冬
☆管理栄養士 すずまり が書きました。
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